実家でやっていた家事は、何も考えず習慣的に、身体を動かしているだけだった。
だけど今は、色んなことを考えられてちょっと楽しい。
洗濯物って、人が見えるんだね。今まで考えたこともなかった。
下着なんかはさすがに自分で洗うから、ここにはない。
スカートやワンピース。唯一の女性物は蓮さんの母、榕子さんのもの。実家にいた頃は母の下着までぼくが洗っていたから、別に気を使うこともない。
でも母とは違う柔らかな素材が多くて、榕子さんらしいなと思う。いつもにこやかな彼女は、とても優しい女性だから。
控えめな色合いのワイシャツは、サラリーマンをしている東さんのもの。
いつもハンガーにかけてあるから、それに倣ってかけておく。
咲良さんのはやっぱり大きいな。タグが日本のものじゃなくて珍しい。
シンプルなデザインの服は、蓮さんのものだ。
襟元を見て驚いた。すっきり着こなしているから、てっきりどこかのブランド物だと思ってたのに、ぼくでも持っている安いお店のロゴが入ってる。
着る人が違うと映えるものなんだね。
タイトだけど変わったデザインで、どれも二つ揃っている服は、蓮さんのイトコ伶志(レイシ)さんと雷馳(ライチ)さんのものだろう。そっくりな二人はなぜか、同じ服を着ていることが多い。
双子みたいなのに、双子ではないという二人。同じものが二枚ずつあるって面白い。
そして、派手目のデザインがプリントされている、いかにも若者的な服は、虎臣くんのもの。
「うわ!ほとんど終わってんじゃん!」
ちょうど虎臣くんのTシャツを畳んでいるときに声をかけられ、振り返った。
驚いた顔の虎臣くんは、ばつが悪そうに頭を掻いている。
「ごめんね。オレ、遅かった?」
「そんなことないよ」
「結構な量なのに…二宮さん、手際いいんだね」
虎臣くんの意外な言葉に驚いて、ぼくは首を振ってしまう。
ぼくに手際がいいなんて言った人、初めてだ。
「全然そんなことないよ…一人暮らししてたし、実家でもぼくがやってたから…」
「そうなんだ。お母さん、働いてるの?」
「うん」
「じゃあオレと同じだね。まあオレは、千歳さんに任せっきりだったけど」
残り少ない洗濯物を一緒に畳んでくれながら、虎臣くんはお母さんのことを話してくれる。確か今は、恋人と一緒にイタリアで暮らしていると聞いていた。
「すごい気が強くてね、めちゃくちゃ口下手なのに、水商売やってたんだよ。どうやって接客してたのか、いまだに疑問。本人もよく続いたって言うくらい」
「そうなんだ…」