「料理は理子(リコ)の担当で、他の事は千歳さんがやってたんだ。でも理子のイタリア行きが決まった後、二人だけになってね。千歳さん忙しいし、オレも出来ないしで、家は荒れ放題。二人とも料理出来ないから、食べるものは全部デリバリー。最低でしょ」
「そ、そんなことは」
「最悪だったよ…。そこへ乗り込んできた蓮さんが、人間の住む環境じゃないって怒ってさ。オレたちを南国荘に強制連行したんだ」
最後の一枚を畳んだぼくを待って、虎臣くんはリビングに誘ってくれる。
「お疲れ様。お茶しようよ」
「う、うん」
「なんかお腹すいたな〜。蓮さん、何か作ってくれてるかな?オレさあ、ここへ来るまでめちゃくちゃ偏食だったんだよ」
「そう…なの?」
「ホント。肉しか食べないくらい」
「そんなに?」
「うん。でも蓮さんって、そういうの許してくれないんだ。アレルギー以外は認めないとか、食えないものは出してないって言って。最初のときなんか、伶と雷にオレのこと押さえつけさせて、口にニンジンねじ込んだんだよ?」
ひどいよね、と言うけど。虎臣くんは笑っていた。
一緒に食事をしていても、彼が偏食だなんて全然気付かなかった。ここへ来てから治ったのかな。
そういえば蓮さんはよく「残すな」と口にする。なんだか迫力が怖くて、食の細いぼくも必死に食べるようになった。
「榕子さ〜ん、お腹すいた〜」
「蓮ちゃんが虎ちゃんにって、サンドイッチ作って行ったわよ」
「ホントに?!…それまた、野菜サンドなんじゃないの」
「さあどうかしら?」
くすくす笑う榕子さんは、リビングで紅茶を飲んでいた。ホントに偏食だったんだね、虎臣くん。
「あ、フルーツサンド!やった。オレ蓮さんのフルーツサンド食べるまで、パンにクリームなんてありえないと思ってたけど、美味しいんだよね。二宮さんも一緒に食べようよ」
「い、いや、ぼくは…」
「美味しいのよ、あーちゃんも少しもらったら?私も食べようかしら」
「じゃあ三人でこれ食べながら、お茶しようよ。伶にバレたら全部持って行かれる」
「でももう、お茶がないのよ」
残念そうにポットを覗き込む榕子さんの言葉を聞いて、ぼくはまた、つい余計なことを言ってしまった。
「ぼくが淹れましょうか?」
言った途端、驚いた顔の二人に見つめられて、後悔する。
ここのキッチンは蓮さんのものだ。ぼくが勝手にしていいわけないのに。
「す、すいません、ぼく…」
慌てて撤回しようとしたら、榕子さんは嬉しそうに微笑んだ。
「いいの?あーちゃん」
「え?」