【南国荘U-C】 P:09


「淹れてくれると嬉しいわ。あのねえ、私ディンブラが飲みたいんだけど。虎ちゃん場所知ってる?」
「知ってるよ、淹れ方は知らないけどね。二宮さんわかる?」
「う、うん」
「じゃあ、はいコレ、お茶ね。それからヤカンと〜新しいポットと〜…他に何がいるんだっけ?」
「ティースプーンじゃない?紅茶の棚にあるわよ」
「これかな?あと三人分のカップか」

 てきぱき並べてくれる虎臣くんを、おろおろしながら見つめる。
 ぼくが淹れてもいいの?

「じゃあ、あとよろしく。運ぶのはオレがやるからね」
「あ…あの」
「なに?何か足りない?」
「えっと…いいのかな?ぼくがやっても」
「だって出来ないもん、オレ。あ…もしかして肩、痛い?」
「それは、全然」
「じゃあお願いします」
「…うん」

 実家ではぼく以外コーヒー党ばかりだったから、毎朝コーヒーだったけど。ぼく自身はコーヒーが苦手で、ときどき自分のために紅茶を淹れていたんだ。
 先に一度お湯を沸かして、カップやポットを温め、もう一度お湯を沸かして紅茶を淹れる。ぼくが飲んでいた紅茶の缶に書かれていた、マニュアルどおりのやり方。
 でも運ぶために待っていてくれる虎臣くんは、珍しそうにぼくを見ていた。

「丁寧だね、二宮さんって」
「あの…時間が掛かってごめんね」
「そういう意味じゃないよ。すごいなって思ってるんだ。さっき洗濯畳んでるときも、蓮さんと同じになるように、丁寧にやってたでしょ?オレは自分が大雑把だから。二宮さんみたいに、ひとつずつの仕事を丁寧にやる人、すごいなって思う」

 茶葉が開くのを待つ間に、そんなことを言われて。ぼくは思わず顔を赤くした。
 すごいなんてこと、少しもないのに。人より何倍も時間の掛かるぼくを肯定してくれたのは、東さんと虎臣くんだけだ。
 同じ編集部にいた短い間、ぼくの面倒を見てくれていた東さんは、時々そんなことを言ってくれた。
 二宮くんは確実に仕事をしてくれる、時間が掛かってもその方がいいって。
 たぶん何をするのも遅いぼくを、励ましてくれただけなんだろうけど。それでも東さんの言葉は、本当に嬉しかった。

「…ぼくは、そんな風に人を見られる虎臣くんの方が、すごいと思う」
「ホント?」
「うん」

 虎臣くんは、いつもちゃんと周囲を見ている。誰かが困っているときや、誰かが何かを必要としているとき、声をかけるのは大抵、虎臣くんか蓮さんだ。
 でも大人の蓮さんとは違い、彼はまだ中学生なのに。同じように人を気遣えて、とても落ち着いていて、すごいなって思うから。