「あーちゃん、手際がいいのよ〜。伶ちゃんたちに言われてから、ぱぱーって作ってくれたの」
「そんな、ぼく…これくらいはだって、誰でも」
「あら、そんなことないわ。私が作ると、どんなお料理も真っ黒なんだから」
「…真っ黒、ですか?」
「そうなのよ、変よね」
「オモシロイね。ボク食べたいナ、ヨウコさんのクロいゴハン」
怖いもの知らずだな、咲良さん……オレは全力で遠慮したい。前に千歳さんが作った黒いラーメンは、激マズだったんだから。
でも喋る間が惜しくて、必死に食べていたら、二宮さんがお茶を持ってきてくれた。
「虎臣くん、もし良かったら、おかわりあるんだけど…」
「ほんと?お願いします」
さっと茶碗を差し出す。ください、おかわり。いくらでも。
空の茶碗を受け取ってくれた二宮さん見上げたら、戸惑った顔で、でもちょっと嬉しそうに笑ってる。
いつもは長めの前髪に隠された、二宮さんの顔。頬にそばかすのある細面の顔が、ほっとしたのか柔らかく見えて、なんだかオレまで嬉しくなってしまった。
二宮さんのメシでお腹いっぱい。満足したオレはすぐに着替えを済ませ、咲良さんと南国荘を出た。
予定よりちょっと遅くなっちゃったけど、いいよね。別に何かやることがあるわけじゃないし。
南国荘を出るとき、咲良さんはけっこう強引に二宮さんを誘ってた。でもオレが止めたんだ。
だって二宮さん、まだケガ治ってないんだし。ガンガン食べてたオレが言うのもなんだけど、急に料理なんかすることになって、疲れたんじゃないかと思ったから。
だから目的地であるお寺までの道のりを、咲良さんと二人、のんびり歩いてる。
「アオキも来ればヨカッタのに」
まだ残念そうに咲良さんが言うから、オレは隣を歩きながら肩を竦めた。
「ムリだよ、ケガ治ってないし」
「ソウカナ…でもアオキ、南国荘に来てカラどこにも出掛けてナイ。毎日ビョーイン行くダケ」
「それは…そうだけど」
「仕事ナイ、怪我治らナイ。するコト何もナイから、ずーっとイエのナカ。ソンナノ、苦しいヨ」
驚いて顔を上げる。
そっか……咲良さんは閉じこもりっきりの二宮さんが、息苦しい思いをしてるんじゃないかと思って、強引に連れ出そうとしてたんだ。
……オレ、まだまだだなあ。
「ごめん」
「ン?」
「気付かなかった。確かに、そうかも」
突然住むことになった南国荘で、代わり映えのない単調な毎日。確かにそんな生活は、息が詰まってしまうはずだ。