【南国荘U-D】 P:09


 積極的な性格とはいえない、二宮さんだから。誰かが誘ったりしなきゃ、散歩にも出掛けないよね。

 二言目には「すいません」と「ごめんね」を繰り返している二宮さん。
ケガをしたせいでバイトをクビになって、お金も住むところもなくしてしまったのだと、千歳さんから聞いてる。
 だから余計に、後ろ向きな考えになってしまうのかもしれない。きっと千歳さんに申し訳ないって、思ってるんだ。
 そうか……そうだよね。
 誘えば良かったな。

「オレ、考えが足りなかった」
「気にスルことナイヨ」
「咲良さん、でも」
ダイジョーブ。次のトキ誘えばイイ」
「…うん」
気づかなかったコト、ワルイんじゃナイ。ダイジなのは繰り返さナイこと」

 ね?って笑った咲良さんは、オレの肩を気軽に叩いた。

「アオキがイッショじゃないのは、ザンネンだけど。トラオミと二人なのも、きっとタノシイ。今日は今日をタノシム!アシタのことはアシタ!」
「何それギリシャ人的思考?」
「ソウ。ギリシャジンテキシコウ」

 ほんと、咲良さんはオレの言葉、マネしすぎだよ。でも面白いから、いいか。
 目の前のこと、楽しまなきゃね。

 歩いて二十分くらいのお寺まで、ギリシャのことや、咲良さんが大学で学ぶ予定の、建築のことなんかを聞きながら歩く。
 時々、咲良さんが写真を撮るのに付き合いながら。
 一緒に歩いてると、やっぱり咲良さんは目立つから、すれ違う人が足を止めるんだ。そうるすと咲良さんは、誰にでも気軽に「コンニチハ」って声をかける。
 返事してくれても、してくれなくても、咲良さんの笑顔は変わらない。
 ギリシャの人はみんなそうなの?って聞いたら、どうかなって笑ってた。日本人でも返事をしてくれる人、逃げちゃう人、色々でしょって。
 確かにそうだ。
 前のオレだったら、ナニこいつ?って思って、シカトしてたと思う。今だったら戸惑いながらでも「こんにちは」って返すだろう。
 同じ人間でも状況によって、反応は違う。国民性でなんか括れない。

 お寺に着いてからは、一時間ぐらいいたのかな。
 庭掃除をしていた若いお坊さんに、咲良さんが中を見せて欲しいって話しかけたら、もっと年寄りのお坊さんに相談してた。
 そうだね。ギリシャ人だからどうかって話じゃない。
 オレはこんな風に、気後れせず人に話しかけ、笑顔で自分の意見を言える咲良さんが、すごいなって思うんだ。屈託のない笑顔だから、全然イヤな気にならないんだよ。

 年寄りのお坊さんは、嬉しそうにオレたちを中へ案内してくれた。