【南国荘U-E】 P:03


 
 
 
 どうにも納得できない。
 まったく信じることが出来ない。

 自分の恋人が、求愛者に抱きしめられていても、目の前で口説かれても、黙って見ているなんて。
 チトセは本当にレンを愛してるの?

 日本で同性の結婚が、認められていないのは知ってる。でもゲイであるボクにとって、そんなことは関係ない。
 政府が認めなくても、愛し合う二人が一生を誓えば、それは結婚と呼んでいいだろう。
 ヨウコさんは二人のことを新婚だと言っていたし、誰もその言葉を否定しなかった。本人たちでさえだ。
 ……からかわれているわけじゃない、みたいだけど。
 でもボクには二人の間に、それほどの愛や情熱があるなんて、思えない。
 チトセとレンが結婚はともかく、恋人同士だなんて。本当に?

 息子がいるのは愛し合う二人にとって、些細なことかもしれない。しかもその息子はトラオミだ。
 あんなに優しい可愛い子だったら、レンも一緒にいられて嬉しいだろう。
 でもチトセには、奥さんがいる。レンもそれを平然と認めていた。
 日曜日、ボクがレンの買い物について行ったとき。チトセの奥さんはどんな人なのか聞いたら「いい女だ」って言ってた。
 別れてほしくないのか尋ねても「そんな必要はない」って。
 やっぱりボクにはわからない。
 レンの愛は、本当に本物なの?
 
 
 
 いまボクの目の前には、帰国のための荷物が置いてある。
 ジンと約束した滞在期限の一週間は、明日で終わり。明日お昼の便で、一度ギリシャに帰らなければならない。

 この一週間、ボクはずっとレンを見ていた。出来る限りそばにいて、彼に愛を伝え、気持ちを語り続けた。
 レンの答えはいつも同じ。「わかった」「そうか」「諦めろ」。
 ほとんど同じ言葉。でも強く拒絶されたりもしないんだ。
 隣に座っても逃げないし、買い物や仕事へも、一緒に行きたいと言えば、可能な範囲で許してくれた。
 チトセだって最初の夜は、青ざめたり恥ずかしがったりしていたけど。翌朝にはちゃんとボクを見て「おはよう、咲良くん」と笑ってくれていたんだ。

 ……二人は本当に、愛し合ってるの?
 同じ部屋で寝起きするわけでもない。
 仕事から帰ってきたチトセに、レンはキスのひとつもしない。
 二人がハグしているところすら、見ていない。
 彼らの愛がどこにあるのか、ボクには全然わからない。
 ボクがチトセの目の前でレンを抱き寄せても、彼は少し困った顔をするだけで、何も言わないなんだから。
 もしかして彼らの愛は、とっくに冷めているんじゃないかって。一週間経った今、ボクはそんな結論にたどり着いていた。

 それなら納得できる。
 レイシも言ってたよね。レンを押し倒したいなんて、日本人なら普通、考えない。