【南国荘U-E】 P:05


 荷造りの済んだ鞄を机に置き、ボクはそうっと部屋を出た。
 深夜の南国荘は、たくさん人が住んでいるのに、もう静まり返っている。日本人は夜が早いね。深夜と言っても、まだ日付が変わるかどうかだよ。

 何と言って部屋に入れてもらうか考えながら、ゆっくり階段を下りる。
 場所は知っているけど、まだレンの部屋には入れてもらったことがないんだ。プライベートな空間を見られるのが、
恥ずかしいのかな?
 レンがどうしても、自分の部屋は嫌だというなら、ボクの部屋でも構わない。目を見て話して、二人で決めればいいことだ。

 レンの部屋は一階の北側。
 階段を最後まで降りきったボクは、人の声に気付いて、足を止めた。

「なんでそんな、不安がるんだ。もう少し自信を持ったらどうだ?」
「わかってるよ!…わかってる、けど…」

 言い争うというには静かな、レンとチトセの声。なんだか声を掛けづらくて、ボクは二人に気付かれないよう、静かにそっちへ向かった。

「俺にはお前が、何をそんなに心配しているのか。全然わからねえよ」
「蓮…」
「あるはずないだろ?俺を疑うのか?」
「疑ってないってば…でも、蓮」
「なんだよ」
「…虎くんに聞いたんだ。咲良くんは真剣で、本当に本気なんだって」
「………」
「すごく優しくて、誰にでも親切なんだって言ってた。裏表がなくて、知らない人を悪く言ったりすることもない。お父さんやお母さんのこと、とても大切にしてる」
「千歳」
「僕だって…咲良くんを見てれば、彼がどんなに魅力的で、どれほど蓮に対して真剣なのか、わかるから…」
「お前は…ったく」

 二人はボクのことを話しているんだ。
 うな垂れているチトセを、壁に寄りかかったレンが、溜息を吐きながら見つめている。
 優しい表情を浮かべて、レンはチトセの髪をかき上げた。

「咲良がどんな奴でも、それが俺とお前に関係あるのか?」
「だけど」
「あいつが悪い奴じゃないのは、俺だってわかってるさ。でも俺にとって大切なのは、お前だけだ」
「蓮…」
「言っただろ?望むことは、何でも言えばいい。俺と二人で暮らしたいとでも、咲良をここに置いて欲しくないとでも。お前が言うことなら、全て俺が叶えてやる」

 どうする?と尋ねる蓮の言葉を聞いて、ボクはさすがに青ざめた。
 レンがチトセを大切にしているのは、わかってるよ。でも、
だからってボクを追い出してもいいなんて。

 慌てて二人の方へ歩き出そうとしたボクの腕を、誰かが強く掴んで引き止めた。
 振り返れば、唇に指を押し当てている少年が、首を振ってボクを見つめてる。

「トラオミ…?」

 華奢な身体でボクを引き止めていたのは、トラオミだ。
 振り払おうと思えば簡単に出来るけど、真剣な彼の表情に、つい動きを止めてしまう。
 でも、このまま黙っていたら、ボクは。