お医者さんからは三週間の安静と、その後のリハビリを宣告されている。近所にある接骨院を紹介するから、そこで診てもらいなさいって。
でも新しい仕事を探したり、力を使うようなことは、当分ムリだと言われたんだ。
気持ちばかりが焦ってしまう。
いつになったら東さんにかけた迷惑を、返せるようになるんだろう。
何も出来ないぼくは地道に働くことしか、金を稼ぐ手段を知らない。
全てを返すには、時間がかかるに決まってる。だからせめて僅かでもお金のもらえる仕事を探して、南国荘を出て、これ以上東さんに負担をかけないよう、彼から離れなきゃいけないと思っているのに。
「二宮さん!」
足元を見て歩いていたぼくは、後ろから呼ばれて顔を上げた。
振り返ると、こちらへ駆け寄ってくる制服姿。
「虎臣くん…」
「珍しいね、外で会うなんて。散歩にでも行ってた?」
「あの、お医者さんに」
「そっか。今日の予約、午後だったんだ」
ぼくのそばで立ち止まり、微笑んでいた彼は、くるりと自分の駆けてきた方を向いた。
何かと見れば、同じ制服を着ている少年たちがいる。友達なのかな。
でもこうして、改めて同世代の少年と一緒に虎臣くんを見たら、彼が大人っぽいことを実感した。
落ち着いた表情も、細身だけどしっかりした体つきも、完全に浮いてしまってるんだ。虎臣くんカッコいいから、まるで一人だけドラマの登場人物が混ざっているみたい。
「ごめん!やっぱオレ、今日は帰るな!」
軽く手を上げて虎臣くんが言うと、少年たちはあからさまに不満そうな顔をした。
「なんだよ東、話が違うじゃん!!」
「ごめんな、次は付き合うからさ!…行こう二宮さん」
「え?…あ、あの」
「いーからいーから」
ケガしていない方の手を引いて、友達に背を向けた虎臣くんは、さっさと歩き出してしまう。
後ろからはまだ、納得していない少年たちの声がしていたけど。虎臣くんは気にした様子もなく彼らに手を振り、ぼくと一緒に角を曲がってしまった。
まさかぼくに会ってしまったから?
そんな、どうして。
「あの、虎臣くん」
「良かった〜、二宮さんに会えて」
「…え?」
「オレさ、苦手なんだよね。学校の友達と、いつまでもダラダラ話してるの。意味わかんないし」
ぼくの手を離し、隣に並んで歩きながら、虎臣くんは不機嫌そうに眉を寄せていた。
「何組の女子がどうとか、先生がムカつくとか、そんな話ばっかり。知らないよ、オレはその先生にムカついてないんだから」
「そう…なんだ?」
「うん。大体、好きな女子がいたってさ、そんなの黙って勝手に想ってればいいじゃん?付き合いたいなら、その相手に告ればいいだけだし。わざわざ人に言うこと?オレに言われたって、頑張れよとしか言えないじゃん」