【南国荘U-F】 P:05


 苦笑いに変わった顔。
 すごいな。
やっぱり虎臣くんは見た目だけじゃなく、精神的にも同級生たちより、ずっと大人なんだ。

「先生がオレたちに口うるさく言うの、当たり前でしょ。先生なんだから」
「そうだね」
「オレとしてはいちいち先生に、蓮さんと比べられる方が面倒くさい」
「蓮さんと?」
「うん。蓮さんね、今オレが通ってる中学の出身なんだ。しかも蓮さんが二年のときに担任だった先生が、今のオレの担任なんだよ。だからいちいち葛(カズラ)はあーだった、葛はこーだったって…知らないよそんなの。関係ないじゃん?オレは蓮さんの、弟でも何でもないんだから」

 溜息を吐いた虎臣くんが、むすっとした表情になる。ぼくは初めて彼の、中学生らしい顔を見たような気がした。

「大体あの人、何でも出来過ぎ。あんなのと比べられたら誰だって凹むし」
「…確かに、そうかも」
「だよね?
ホントもうムカつく。家事完璧だし、見た目モデル並みだし、カメラマンとしても才能あるし。なんなのあの人。なんで蓮さんだけ、何でも出来ちゃうの?

 虎臣くんの零す愚痴は、ぼくが考えていたことと、あまり変わらない。
 ちょっと驚いてしまった。
 蓮さんには何でも出来て、ぼくは何一つまともに出来なくて。
 でも虎臣くんだって、
ぼくから見れば何でも出来るのに。そんな彼でも同じようなこと考えるんだ。

「…どうしたの?二宮さん」
「あ、ごめん、その…虎臣くんでもそんなこと考えるのかって、思って」
「オレでも?」
「うん…だってぼくから見たら、虎臣くんは十分すごくて、羨ましいのに」

 大人顔負けの落ち着きと、気遣い。他人を見る彼の冷静さや、そこで気付いた何かに応じられる、優しい性格。
 ぼくにとっては、虎臣くんも十分、羨ましい存在だ。

「ぼくは南国荘で、何度虎臣くんに救われたか、わからないから…」
「ちょ、二宮さんっ」
「え?…何か変なこと言った?ぼくは虎臣くんのこと尊敬してるよって…」

 気に障るようなこと、言ったのかな。
 戸惑うぼくの前で、驚いた顔の虎臣くんは、赤くなっていく顔を隠すように、手で口元を押さえた。

「ヤメてよもう…咲良さんといい、二宮さんといい」
「咲良、さん?」
「オレのこと持ち上げたって、何もいいことないよ!ガキに気を使うことないんだから」
「そんな、ぼくは本当に」
「わ、わかった!わかったから、もういいってば。ありがと」
「虎臣くん」
「二宮さんのことガッカリさせないよう、これからも精進シマス。はい終了。ほらほら、もう家だから」

 人のことはいつも自然に褒める虎臣くんなのに、自分のことを言われると、こんな風に照れちゃうんだ。
 ぼくの言葉に彼は怒ったわけじゃなく、喜んでくれたんだって。鈍いぼくが気付いたのは、しばらく後のことだった。