やっぱりぼくは、ダメな人間なんだ。
どうしたらいいのか、わからない。
もう本当に、消えてしまいたい。
ぼくなんかいなくなればいいのに。こんな何の役にも立たない存在、どうして生まれてきたんだろう。
虎臣くんの言葉で、自分のやってしまったことを思い知った。
学校から帰ってくる虎臣くんは、きっと榕子さんとの時間を、何より大切にしていたんだ。
お母さんはイタリアに行ってしまって、東さんがいるとはいえ、他人ばかりの南国荘へ連れてこられて。
どんなに不安だったろう。
でも彼は榕子さんに救いを求め、榕子さんもそれに応えた。
優しい二人の、温かい時間。
少し考えればわかりそうなこと。
虎臣くんは学校から帰って来ても、いつだってしばらくの間、自分の部屋へ帰らなかった。制服姿のまま榕子さんと話し、おやつを食べたり、お茶を飲んだりする。
榕子さんに「着替えていらっしゃい」と言われてはじめて、二階へ上がっていく。
二人が築いた大事な時間。
それをぼくが、台無しにしていた。
兄の言葉が蘇る。
お前なんか何の価値もないと、よく言われた。そんなに何も出来ないくせに、よく今まで生きてこられたな、って。
ぼくは何も言い返せなかった。
だってそれは、本当のこと。
……でも平気だったわけじゃない。黙っていたけど、辛くないわけはなかった。
生きる価値も、死ぬ勇気もない。
だから誰にも気付かれないよう、静かに生活することだけを望んでる。
なのに、南国荘へ来て。
色んな人たちに、優しくしてもらって。
虎臣くんに笑いかけてもらうのが、嬉しくて。
何も返せない、と嘆くばかり。それに気づいても、ぼくは行動に移そうとしなかった。甘えるばかりで、全てをケガのせいにして。
自分が無価値なのを知っているくせに。
早く出て行かなければならないと、わかっていたのに。
この家の優しい空間から、離れようとしなかったんだ。
「何考えてんの?!まだケガ全然治ってないのに!無茶しないでって、オレずっと言ってたじゃん!!」
枕元で怒鳴る虎臣くんの声に、びくっと身体を竦ませた。
「ごめん…なさい…」
「謝ってる場合じゃないでしょ!ほんっとにも〜…駅から連絡来た時、オレがどんなけ心配したと思う?!ちょうど咲良さんが戻る日だったから良かったけど、そうじゃなかったら迎えにも行けなかったんだよ!!」
悔しそうな虎臣くんは、ベッドの傍らに立って、苛立たしそうにタオルを絞っている。
その反対側、ぼくの横になっているベッドの端に、ギリシャから戻ったばかりの咲良さんが腰掛けていた。