【南国荘U-F】 P:09


 
 
 
 やっぱりぼくは、ダメな人間なんだ。
 どうしたらいいのか、わからない。
 もう本当に、消えてしまいたい。
 ぼくなんかいなくなればいいのに。こんな何の役にも立たない存在、どうして生まれてきたんだろう。

 虎臣くんの言葉で、自分のやってしまったことを思い知った。
 学校から帰ってくる虎臣くんは、きっと榕子さんとの時間を、何より大切にしていたんだ。
 お母さんはイタリアに行ってしまって、東さんがいるとはいえ、他人ばかりの南国荘へ連れてこられて。
 どんなに不安だったろう。
 でも彼は榕子さんに救いを求め、榕子さんもそれに応えた。
 優しい二人の、温かい時間。
 少し考えればわかりそうなこと。
 虎臣くんは学校から帰って来ても、いつだってしばらくの間、自分の部屋へ帰らなかった。制服姿のまま榕子さんと話し、おやつを食べたり、お茶を飲んだりする。
 榕子さんに「着替えていらっしゃい」と言われてはじめて、二階へ上がっていく。
 二人が築いた大事な時間。
 それをぼくが、台無しにしていた。

 兄の言葉が蘇る。
 お前なんか何の価値もないと、よく言われた。そんなに何も出来ないくせに、よく今まで生きてこられたな、って。
 ぼくは何も言い返せなかった。
 だってそれは、本当のこと。
 ……でも平気だったわけじゃない。黙っていたけど、辛くないわけはなかった。
 生きる価値も、死ぬ勇気もない。
 だから誰にも気付かれないよう、静かに生活することだけを望んでる。

 なのに、南国荘へ来て。
 色んな人たちに、優しくしてもらって。
 虎臣くんに笑いかけてもらうのが、嬉しくて。

 何も返せない、と嘆くばかり。それに気づいても、ぼくは行動に移そうとしなかった。甘えるばかりで、全てをケガのせいにして。
 自分が無価値なのを知っているくせに。
 早く出て行かなければならないと、わかっていたのに。
 この家の優しい空間から、離れようとしなかったんだ。
 
 
 
 
 
「何考えてんの?!まだケガ全然治ってないのに!無茶しないでって、オレずっと言ってたじゃん!!」

 枕元で怒鳴る虎臣くんの声に、びくっと身体を竦ませた。

「ごめん…なさい…」
「謝ってる場合じゃないでしょ!ほんっとにも〜…駅から連絡来た時、オレがどんなけ心配したと思う?!
ちょうど咲良さんが戻る日だったから良かったけど、そうじゃなかったら迎えにも行けなかったんだよ!!

 悔しそうな虎臣くんは、ベッドの傍らに立って、苛立たしそうにタオルを絞っている。
 その反対側、ぼくの横になっているベッドの端に、ギリシャから戻ったばかりの咲良さんが腰掛けていた。