「…本当にご迷惑をおかけしてしまって…すいません」
「アオキ、一週間前ヨリ細くナッテル。ちゃんとレンのゴハン、残サズ食べてタ?シッカリ食べなきゃ、ナオル怪我もナオラナイ」
咲良さんは日本を発ってから、十日足らずで戻ってきたんだ。今日、帰ってくることは聞いていたけど……すっかり忘れていた。
自分のことばかりで。
ちゃんと聞いていたのに、帰国早々迷惑をかけるようなこと。
やっぱりぼくは、何も変わっていない。
「…シゴト、探しに行ったンダッテ?そんなコトしてもダレモ喜ばナイヨ」
静かな言葉に、ぼくは唇を噛みしめた。
少しでも早く、南国荘を出て行きたかったんだ。もう虎臣くんの邪魔、したくなくて。
心配して止めてくれた榕子さんの言葉に従わず、仕事を求めて都心に出たぼくは、人の多さに圧倒されて、すぐに動けなくなってしまった。
無遠慮にぶつかってくる、忙しげな人々。ぼくが肩を痛めているなんて、当然誰も気付かない。
それでも仕事を探そうと歩き出し、何度も何度も人にぶつかって、怒られて。
南国荘の柔らかな空間が、どんなに自分を守っていてくれたのか、思い知った。
そう気付いたら、何も考えられなくなってしまって。
ふらふらと電車に乗り、南国荘へ帰ろうとしたぼくは、たどり着けずに駅で気を失ってしまったんだ。
ぼくのことを覚えていた駅員さんから南国荘へ連絡が来て、それを聞いた虎臣くんが、日本へ戻ってきたばかりの咲良さんと一緒に迎えに来てくれて。
目を覚まさないぼくのこと、咲良さんは抱き上げて南国荘へ運んでくれたらしい。
……ぼくが目を覚ました時には、全て終わったいた。
気付いたのは、往診に来てくれたお医者さんに、診てもらっている時だったから。
「本当に、ごめんなさい…」
あまりに申し訳なくて、自分が情けなくて、目蓋が熱くなっていく。零れる涙をこらえられない。
布団にしがみつき、声を殺して泣いている馬鹿なぼくを、振り返った虎臣くんは驚いた顔で見ていた。
「え…ちょっと、二宮さん、大丈夫?」
「トラオミがオコルから」
「オレ?!だってオレ…あの…そんな」
「アオキは自分のイロイロなコトを自分でデキナイの、ツラカッタんでしょ。怒っちゃダメだよトラオミ」
「あ…。ごめん、ごめんね二宮さん、オレそんな、怒ってるんじゃなくて、心配だっただけで…あの、泣かないで?ごめんなさい」
辛そうな虎臣くんに、君が悪いわけじゃないと言ってあげたいのに。声が出なくてただ首を振ることしか出来ない。
そんなぼくの顔に、咲良さんは覆いかぶさるようにして、自分の顔を近づけた。