蓮は基本的に、咲良くんを相手にしない。
どんなに口説かれても抱きつかれても、ああそうかって、軽く流してしまう。
恩人である六浦(ムツウラ)さんの息子だから、強く拒絶したりもしないんだけど。だからといって、蓮が咲良くんの想いを受け入れたりしないことは、わかってるんだ。
それなのに僕は、不安で。
お前が不安がることはないって、いくら蓮が言ってくれても、時々怖くなってしまう。
……咲良くんはとても真剣な目で、蓮を見るんだ。
彼は情熱的だし、率直な言葉で自分の想いを口にする。
蓮の仕事や買い物について行きたいと言うとき、何をしに?って迷惑そうな蓮にも「愛してるから一緒にいたいんだ」なんて、ストレートに気持ちを伝えてる。
本当は羨ましいのかもしれない。そういうこと、僕にはできないから。
お国柄なのかな。でも彼の気持ちは彼だけのもので、咲良くんがギリシャ人だからかどうかなんて、関係ない。
十年もの間、僕のことを忘れずにいてくれて、ずっと見守っていてくれた蓮。
五年前たった一枚の写真で蓮に惹かれ、遠い日本まで会いに来た咲良くん。
彼らが似ているように思うのは、僕だけなのかな。二人はどちらも、自分の想いに正直だし、気持ちから逃げようとはしない。
いつだって何かから逃げてしまうのは、僕だけだから……。
『チトセ』
僕を呼ぶ声に顔を上げたら、ラジャさんがすうっとこっちへ降りてきてくれた。
榕子さんが部屋へ戻ってしまった後まで、ラジャさんがリビングにいるのは珍しい。
「ラジャさん」
『アオキの様子は、ワタシが見ておくから。心配することはない』
「ありがとうございます」
暗い顔をしているから、二宮くんのことを考えてるって思ったのかな?でもラジャさんは、蓮がするように「わかってる」って顔で頷き、そっと僕に手を伸ばしてくれた。
彼の手が僕に直接触れることはない。
でもこうして、まるで頭を撫でるみたいにされると、ほっとするんだ。南国荘に来たばかりの頃は、あんなに怖がっていたのにね。
『レンを信じなさい。あの子がキミを想い続けていた時間を。それは何事にも変え難いものだよ』
「…はい」
『キミを心配する者も、いることだしな』
ラジャさんの視線を追うと、リビングの窓際に置いてある鉢から、小さな精霊が僕を見つめていた。あの子は一番最初に、僕が仲良くなった南国荘の精霊。
目が合うと、顔を赤くしてぱっと隠れてしまう。照れ屋っていうか、シャイなんだよね。そういうところが自分と似ていて、お互い気にかかるのかもしれない。
「チトセは南国荘のセイレイみんなと、ハナシがデキルの?」
ラジャさんと僕が話しているのを、咲良くんは見ていたんだろう。そんな風に聞かれて、僕は首を振った。