「話が出来るのは、ラジャさんとだけだよ。声は聞こえるけど、言葉がわからないんだ」
「ニホンゴじゃないカラ?」
「どうかな…どう思われますか?」
視線を上げてそこにいるラジャさんに問いかけると、ラジャさんは苦笑いを浮かべていた。
不安で切なくて、泣きたくなってるのに。咲良くんと笑って話せている僕を、矛盾してるって、思われたのかな。
確かに蓮のことでは、色々不安を煽られるけど。僕は咲良くんのことが嫌いになれないだ。彼がいい子なのは、もう知ってるし。だからこそ、不安になると言うか。
『言語のせいではないだろうな。ヒトにはなかなか、あれらの透明な声を内容まで拾うのは、難しかろう』
「言語のせいじゃないんだって。内容を理解するには、もっと精霊さんたちに近い存在じゃなきゃいけないみたい」
「ソッカ…ザンネン。エリニカとアングリカならワカルのに」
「エリ…アン?」
日本語の達者な咲良くんの言葉には、それでもほんと時々、ギリシャ語が混ざってしまう。不思議そうに尋ねた虎くんを見下ろし、咲良くんは優しく笑った。
一時期帰国する前から、二人は兄弟のように仲がいいんだ。
「エリニカ、ギリシャゴ。アングリカは…なんだったカナ?English」
「ああ、英語かあ」
「ソウだった、エイゴ」
「日本語も入れて、三ヶ国語喋れるんだ。すごいね」
「デモ、ケッコウいるよ、アングリカ…エイゴ話せるギリシャ人」
「ふうん…みんな頭いいんだ。まあ、精霊たちがどっちで喋っても、咲良さんやオレじゃ答えが聞けないけどね」
虎くんに言われて、咲良くんはそうだったと、肩を落としている。ほんと、子供みたいな顔だ。身体が大きいから、そんな姿が妙に可愛くて。くすくす笑っている虎くんは、咲良さんの顔を覗き込んだ。
「咲良さんは怖いとか思わないの?」
「コワイ?」
「精霊とか幽霊とか、そういう目に見えない存在」
虎くんは僕が南国荘に来た当初、怖がっていたのも見ていたし、二宮くんも最初は怯えていた。でも確かに咲良くんは、最初からラジャさんに好意的だ。
聞かれた咲良くんは、理解できないといった顔で首を傾げてる。
「ナニモされてナイのに?セイレイのこと、ラジャのことはワカラナイけど、ユーレイは元々、人間デショ。何かをアキラメられないヒトがユーレイになる。ボクがもしユーレイになったら、コワがられたくナイヨ」
そう話しながら、咲良くんはキッチンから僕にお茶を持って来てくれた蓮の腕、唐突に強く掴んだ。
「ボクが今ユーレイになったら、きっとレンにアイにクルから」
「…好きにすればいいだろ、どうせ俺には見えないからな」
「イイヨ。見えてイテモ見えナクテモ、必ずアイにクル」