じっと見上げる熱い眼差し。蓮はすぐ振りほどいたけど、僕は見ていられなくて立ち上がってしまった。
「千歳」
「ごめんね、蓮。仕事があるから、もう行くね。お茶ありがと、もらってく」
「…仕事場使うんだろ。タンブラーにでも移して、持っていってやるよ」
「でも」
「先に行ってろ」
絶対譲らないって声だ。
追いかけてきてくれようとするのは、嬉しいんだけど。情けない顔を見られたくない。
戸惑ってしまう僕を見て、虎くんが咲良くんの腕を掴み、立ち上がる。
「持ってきたギリシャの写真、見せてくれるって言ったよね」
「…イマ?」
「今。すぐ。…嫌ならいいけど?」
咲良くんはちらっと僕を見て、苦笑いを浮かべると、仕方なさそうに席を立った。
「イヤじゃないヨ。トラオミのオネガイするカオ、スキだしね」
「またそういうことを、誰彼なく言うんだから」
「ダレカレナクじゃないデショ。スキなヒトにしかスキって言わナイ」
「はいはい」
「アイシてるヒトにしか、アイシテるって言わナイのと、オナジ」
蓮の隙を突いて、ちゅっと頬に口付けた咲良くんは嬉しそうに笑ってた。
慌てた虎くんが咲良くんを連れて行く。僕はいたたまれなくて、蓮に背を向けた。
「千歳」
「ごめん、お茶お願い」
鞄や上着を抱えて歩き出そうとする僕に、ラジャさんが声をかけてくれる。
『レンを信じてやりなさい』
信じてる。ちゃんと、信じてると思う。
でも胸の奥が痛くて笑えない。こんな顔、誰にも見られたくない。
足早にリビングを出て、蓮と共有している仕事部屋へ向かう。蓮は誰より僕のこと理解しているから、きっとすぐには追いかけて来ない。わかっているから僕は、鞄を投げ出し両手で顔を覆った。
ほんと、蓮には随分、甘えてると思う。
悪いのは咲良くんじゃない。でも僕は今きっと、もの凄く嫌な顔をしている。
そんな自分が、一番イヤなんだ。
溜め息を吐いて、投げ出した鞄を自分のデスクに置いた。用のないパソコンを開き、騒ぎ立てる自分の心と向き合っていた僕は、扉をノックする音に振り返る。
入ってき蓮は、何も言わずに抱きしめてくれた。
彼の腕に縋りついて、少し安心して。でももう、咲良くんのことは話したくなくて。
顔を上げた僕は、蓮の目を見られないまま、二宮くんの話を口にしていた。