夜が過ぎ、朝が来て。何日経っても、堂々巡りの思考から逃げられない。
蓮を信じてる。
咲良くんがいい子だってわかってる。
僕と蓮の気持ちはちゃんと繋がってる。
でも……咲良くんが魅力的な人だって、毎日毎日気付いてしまう。
苦しくて、だけどこの苦しさは自分勝手なもので。答えを見つけられなくて、逃げるように毎朝、出社するんだ。それなのに僕の心は、会社に着いても切り替わらない。
職場にまで暗い気持ちを持ち込んでしまう僕は、自己嫌悪ばかりが強くなっていく。
久しぶりだな、こういうの。出口のわからない迷路で、うずくまっている気分。立たなきゃ視界は広がらないし、歩き出さなきゃ何も変わらないのにね。
思わず大きなため息を吐いた僕の隣で、同僚の中沢(ナカザワ)くんが顔を上げた。
「三回目ッスね」
「え?」
「ため息。オレが戻ってきて、三回目」
午前中は外に出ていた中沢くん。今は三時だけど…そんなに?
「ごめん、鬱陶しいね」
「いや、いいんスけど…」
ちらっと周囲を見回し、顔を寄せた中沢くんは、声を潜めて囁いた。
「Renさんと、なんかありました?」
「どうして、それ…」
「虎臣くんから理子(リコ)さん。南国荘発イタリア経由、編集部行きッス」
にやりと笑う中沢くんは、今でも理子さんとメル友だ。どこまで知られているのかと思うと、顔が熱くなってくる。
「新入りくんのことで、困ってるとか?」
「それ咲良くんのこと?二宮くんのこと?」
「詳しいことまでは聞いてないんスよ。理子さんからは、もし東さんが辛そうだったら知らせてくれって、それだけ」
「ごめん、ほんとに大丈夫。ちょっと仕事が忙しくて疲れてるのかな」
事情を知ってる中沢くんに、聞いてもらいたい気持ちがないわけじゃないけど。彼に話したら、理子さんまで筒抜けだ。
悪いのはうじうじ悩んでいる自分だって、わかってる分、余計な心配はかけたくない。
「東く〜ん」
「はい!…行ってくる」
岩橋(イワハシ)編集長に呼ばれて、僕はそそくさと席を立つ。
周囲に心配させてばかり。本当にイヤになってくるな。
仕事が忙しいのは事実だから、中沢くんがあれで納得してくれればいいけど。
「忙しいとこ、悪いね」
「とんでもありません」
「いま抱えてる仕事、今週でひと段落着くかな?」
「はい。大丈夫です。…何か?」
「うん、来週末に予定している、Renくんの長崎ね。君、同行してきて」
言われた僕は、首を傾げてしまう。
来週の水曜から金曜まで、確かに蓮は長崎で撮影と取材を行う予定。でも現地のライターが同行するから、編集部からは誰も同行しないはずだったのに。
「三日間ずっと、ですか?」
「そう。こないだ掲載した京都の回、あれ予想以上に評判良くてさ。昨日、京都に同行してくれた現地ライター…天川(テンカワ)企画の林(ハヤシ)君、覚えてる?」
「はい」