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「彼にお礼言おうと思って電話したら、自分より東君が同行したのが良かったんだろうって言うんだ」
蓮と一緒に僕が担当している企画は、写真と文章とどちらも評判がいい。
もちろん蓮の才能のおかげだし、彼を引っ張り出した岩橋編集長の功績だ。僕なんか蓮の予定の調整をして、原稿をチェックしてるくらいなんだけど。
僕が行っても同じじゃないかな?とは思いつつ、行き先が長崎だと聞いて、ちょっと嬉しくなってしまう。
長崎は高校のとき、蓮と修学旅行で行った思い出の場所。また一緒に行けるなんて。
「その代わり現地ライターが同行しないから、二人だけになるけど。大丈夫だよね?」
「大丈夫です」
「Renくんには君から、家で伝えてくれるかな」
「はいっ」
「…うん。元気出して、行っておいで」
にこりと笑った岩橋編集長も、最近の元気のない僕を、気にしていてくれたんだろう。
心配させてしまったことは申し訳ないし、照れくさい。でもすごく嬉しかった。
長崎で蓮とゆっくり話が出来たら、僕はもう少し落ち着けるかもしれない。
咲良くんが南国荘に滞在する予定は、留学期間の四年間。その間ずっと、こんな気持ちを抱え続けるなんて、耐えられないから。
そうなんだよね。
蓮と僕は、プライベートだけじゃない。仕事でも繋がってる。彼をサポートするのが僕の仕事だし、今では使命だと思ってる。
いま一緒にやってる連載を、単行本にまで持って行くのが、最近の僕の野望だ。蓮と一緒にものを作ることが、何よりも幸せ。
長崎へ一緒に行けるって言ったら、喜んでくれるかな?
もちろん仕事だから、喜んでばかりはいられない。評判の良かった京都の回に、匹敵するぐらいのものが仕上がらなければ、僕が同行する意味はなくなってしまう。
逆に言えば、いいものを仕上げることで、僕はまたこの先も、蓮に同行できるかもしれない。
彼の写真を撮ってる姿が好きだ。
すうっと目が細くなって、真剣な眼差しに強い光が宿る。力強い手でカメラを引き寄せて、奇跡の一瞬を狙う。
蓮のあの顔が、一番好き。
もちろん厳しいばかりじゃない。
街中で人々の表情を捉えるときの蓮は、いつになく饒舌。優しい笑顔で、被写体に話しかける。
そしたらね、恥ずかしがっていた人たちの表情が、柔らかく変わるんだ。蓮のカメラを見て、頬を緩めてくれる。
スタジオでの撮影は、一変して静か。でも気迫が伝わるのか、モデルさんたちの表情もだんだん真剣になっていく。
真剣に微笑み、真剣に泣いて、蓮の期待に応えようとするんだよ。
僕は彼と離れていた十年が、お互いにとって大切な時間だったんじゃないかなって、最近良く思う。
蓮がカメラマンとして自分を磨いていた十年。僕が編集者として、色んな経験を積んだ十年。