【南国荘U-G】 P:08


 あの時間があったからこそ、僕らは再会したとき、公私共に支えあえる関係を築けたんじゃないかな。

 咲良くんのこと、気にかかって不安になるのは事実だけど。蓮を信じていないわけじゃないんだ。
 僕らの間にある大切なもの、疑ったりしてない。
 ただ……目の前にすると、どうしてもね。

 いい子なんだもん、咲良くん。
 優しいし、楽しいし、ああ見えてとても真面目。いつも蓮に付きまとって遊んでいるようだけど、春からの講義で使うテキスト、辞書片手に読んでる姿もよく見かける。
 あとカッコいいしね……。蓮の隣に並んでる姿は、とても絵になるから。

 僕はなんとか残業ナシで仕事を終わらせ、急いで南国荘へ向かう。玄関ホールへ駆け込むと、ラジャさんが庭へ出ようとしているのに遭遇した。

『おかえり、チトセ』
「ただいまラジャさん!」

 急停止する僕を見て、ラジャさんは笑ってた。そんな、わかりやすいかな?

『レンはもう仕事部屋へ行ったよ』
「ありがとうございます!」

 やっぱり。蓮に会いたがってるって、バレバレ?
 でもラジャさんは嬉しそうに、僕を見ていてくれる。頭を下げてリビングに飛び込んだ僕を、今度は虎くんと二宮くんが、驚いた顔で迎えてくれた。

「ただいま!」
「おかえりなさい、東さん」
「お、かえり…どうしたの?千歳さん」
「うん、ちょっとね。二宮くん、もう身体はいいの?熱下がった?」
「はい…ご心配お掛けして、すいません」
「気にしないで。ごめん虎くん、コート預けていい?
「いいけど…なに慌ててるの?」
「蓮に仕事の話があって」
「ああ…蓮さんなら…」
「大丈夫、ラジャさんに聞いた!じゃあ、あとよろしくっ」
「ちょ、千歳さん!晩ご飯…っても〜」

 呆れた様子の虎くんが何か言おうとしていたけど、僕は聞いてあげられずに蓮の元へ向かっていた。
 今日は確か、僕でも知ってるブランドの、メンズラインの新作を撮影に行っていたはずだ。
その写真の確認作業をしているなら、咲良くんはいないはず。
 長崎のこと、早く話したい。
 こんなに浮かれてて、笑われるかな。

 二人で共有している仕事部屋は、蓮の自室の向かい側。深夜、虎くんを起こさないよう、気を遣いながら部屋で仕事をしていた僕に、蓮が使えって言ってくれたんだ。
 すごくきれいに片付いてるけど、蓮の写真で溢れている部屋。南国荘で、僕が一番気に入っているスペース。
 部屋の前で何とか息を整え、
邪魔しないよう静かに中へ入る。やっぱり蓮は一人で、大きなテーブルに並べた写真を睨んでた。

「ただいま、蓮」
「ああ…おかえり」
「ねえ来週の長崎、僕も同行することになったんだけど…」

 言いながら、蓮の視線を追う。
 今日撮ってきた写真かな。男性のモデルさんが春物のスーツ姿で映っていて……
僕はそのまま言葉をなくし、立ち竦んだ。