あの時間があったからこそ、僕らは再会したとき、公私共に支えあえる関係を築けたんじゃないかな。
咲良くんのこと、気にかかって不安になるのは事実だけど。蓮を信じていないわけじゃないんだ。
僕らの間にある大切なもの、疑ったりしてない。
ただ……目の前にすると、どうしてもね。
いい子なんだもん、咲良くん。
優しいし、楽しいし、ああ見えてとても真面目。いつも蓮に付きまとって遊んでいるようだけど、春からの講義で使うテキスト、辞書片手に読んでる姿もよく見かける。
あとカッコいいしね……。蓮の隣に並んでる姿は、とても絵になるから。
僕はなんとか残業ナシで仕事を終わらせ、急いで南国荘へ向かう。玄関ホールへ駆け込むと、ラジャさんが庭へ出ようとしているのに遭遇した。
『おかえり、チトセ』
「ただいまラジャさん!」
急停止する僕を見て、ラジャさんは笑ってた。そんな、わかりやすいかな?
『レンはもう仕事部屋へ行ったよ』
「ありがとうございます!」
やっぱり。蓮に会いたがってるって、バレバレ?
でもラジャさんは嬉しそうに、僕を見ていてくれる。頭を下げてリビングに飛び込んだ僕を、今度は虎くんと二宮くんが、驚いた顔で迎えてくれた。
「ただいま!」
「おかえりなさい、東さん」
「お、かえり…どうしたの?千歳さん」
「うん、ちょっとね。二宮くん、もう身体はいいの?熱下がった?」
「はい…ご心配お掛けして、すいません」
「気にしないで。ごめん虎くん、コート預けていい?」
「いいけど…なに慌ててるの?」
「蓮に仕事の話があって」
「ああ…蓮さんなら…」
「大丈夫、ラジャさんに聞いた!じゃあ、あとよろしくっ」
「ちょ、千歳さん!晩ご飯…っても〜」
呆れた様子の虎くんが何か言おうとしていたけど、僕は聞いてあげられずに蓮の元へ向かっていた。
今日は確か、僕でも知ってるブランドの、メンズラインの新作を撮影に行っていたはずだ。その写真の確認作業をしているなら、咲良くんはいないはず。
長崎のこと、早く話したい。
こんなに浮かれてて、笑われるかな。
二人で共有している仕事部屋は、蓮の自室の向かい側。深夜、虎くんを起こさないよう、気を遣いながら部屋で仕事をしていた僕に、蓮が使えって言ってくれたんだ。
すごくきれいに片付いてるけど、蓮の写真で溢れている部屋。南国荘で、僕が一番気に入っているスペース。
部屋の前で何とか息を整え、邪魔しないよう静かに中へ入る。やっぱり蓮は一人で、大きなテーブルに並べた写真を睨んでた。
「ただいま、蓮」
「ああ…おかえり」
「ねえ来週の長崎、僕も同行することになったんだけど…」
言いながら、蓮の視線を追う。
今日撮ってきた写真かな。男性のモデルさんが春物のスーツ姿で映っていて……僕はそのまま言葉をなくし、立ち竦んだ。