写真に映っているのは、背の高い外国人。落ち着いた様子で手を広げ、柔らかい表情を浮かべている。
ラフな格好のものも、斜に構えて帽子を弄ってるものも、映っているのは同じ人。
「れ、ん…それ…」
まるで、プロのモデルみたいに。
均整の取れた体格を活かし、ポーズを取っているのは、間違いなく咲良くんだ。
「あいつ、また俺の現場に押しかけてきたんだよ。そしたら撮影に立ち会っていたデザイナーが、やけに咲良を気に入ってな。どうしても使いたいと言うし、咲良も構わないと言うんで、何枚か撮ってみたんだ」
溜息を吐く蓮は、四つ切サイズにプリントした写真を一枚手にとって、苦い表情を浮かべていた。
「デザインした本人が強く押すだけあって、確かに似合ってるとは思うが。俺は陣(ジン)さんになんて言えばいいんだ」
「………」
「いくらモデルをやれと言っても咲良が断るから、プライベートスナップしか撮らせてもらえないって、前に会ったときもさんざん愚痴られたんだぞ。ったく…バレたらどんな嫌味を言われるんだか」
困ってはいるけど、蓮はその写真を気に入っているんだろう。目を眇めて咲良くんの姿を見ている表情はどこか、満足そうだ。
そういう蓮の顔、好きだよ。
思い通りの絵が押さえられた時の、嬉しさを隠しきれない顔。
でも僕は、一緒に喜んであげられない。
だってそんな……仕事まで咲良くんが、蓮のパートナーになってしまったら。彼を撮るのが、もし蓮の喜びになったら。
……僕は、どうしたらいい?
モデルなんて、僕には到底務まらない。僕に出来ることなんて、蓮の作品やスケジュールを、管理するくらい。
いつか蓮の中で咲良くんの存在が、どんどん大きくなっていったら。そのときに咲良くんが、今と同じ真剣な視線で、蓮を口説いたら。
俺には関係ない、なんて。蓮は今と同じ口調で言えるの……?
「それで、長崎がなんだって?…千歳」
振り返った蓮は、目を見開いていた。
唇を噛みしめる僕にゆっくり手を伸ばし、強く抱きしめてくれる。
「なに泣いてんだ、馬鹿」
「蓮…やだ…」
「ほんとにお前は…」
「やだ…やだよ、行かないで」
「いい加減にしてくれ。お前の中でどんな妄想劇場が繰り広げられてるのか、知らないけどな。ありえないことで泣くな」
「だって…!」
あんなに真剣なんだ。蓮を愛してるって、強い想いを口にするんだよ。
蓮が本当は咲良くんを気に入ってること、僕はもう気付いてるから。
だって本当に彼を嫌っていたら、どんなにデザイナーが望んでも、蓮は素人の咲良くんを撮影に使ったりしなかったよね。
うんざりした顔で溜息を吐いた蓮は、僕の肩を抱き近くの椅子を引き寄せると、腰を下ろして自分の足の上に、僕を座らせた。
「どう言えば信じるんだ?なんでお前はいちいち、咲良の気持ちを優先して、物事を考えようとする」