「でも蓮は咲良くんを気に入ってるじゃないかっ」
「………」
「咲良くんが本当はいい子だって、気付いてるんでしょ?明るくて楽しい子だけど、それだけじゃないこと。本当に優しくて、人の心に敏感な子だって思ってるよね!僕が気付けたこと、蓮が気付かないわけないっ」
「千歳」
「蓮は…れん、は…咲良くんが、好き…?」
まくし立てるように言う僕は、自分の言葉に傷ついていた。
そんなことを確かめて、どうするつもりなんだろう。本当に好きだといわれたら、辛くなるだけなのに。
蓮は不機嫌そうに眉を寄せて、僕の顔を見つめていた。
「悪い奴じゃないとは思ってる」
「蓮…」
「喧しいとも鬱陶しいとも思ってるが、あいつはちゃんと周囲を見られる奴だ。だから虎臣も懐いてるんだろ。…それで?お前はどうなんだよ」
逆に尋ねられて、僕は何度か涙で濡れた目をしばたかせた。
「ぼ、く?」
「ああ。俺にはお前が俺以上に、咲良を気に入っているとしか思えない」
「それは…だって」
「最近のお前は何かと咲良、咲良だ。いい加減不安を覚えるのは、俺の方だぞ。…あいつが好きなのか?」
蓮の言葉と、拗ねた表情に驚いて、僕は首を振った。
「そんなこと!」
「あるわけない、だろ」
「そうだよっ!僕が咲良くんをなんて、そんなことあるわけないじゃないかっ」
「矛盾してるよな、千歳。自分は信じて欲しいのに、俺のことは信じられないのか?」
どうなんだって、蓮は不機嫌そうに言いながら、僕の唇を指先でたどる。
怒ってる表情でじいっと見つめるから、僕は何度も首を振って。そうしたら蓮が、優しく笑ってくれた。
「わかってるさ」
「…うん」
「俺にはお前だけだ」
「うん」
「俺が愛しているのは、過去現在未来を通して、永遠に千歳だけだ」
「うん…うん。ごめんなさい…」
ぎゅうっと蓮に抱きついた。
本当に、咲良くんはいい子で。彼が幸せになってくれたらいいって、僕は思ってて。でもそれは、僕と蓮の未来を書き換えることになってしまうから。
自分を悪者にしたくなかったのかな。
咲良くんの幸せを奪う人間に、なりたくなかったから、悲しいことばかり考えたのかもしれない。
怖かったのも、不安だったのも、僕が弱いせいだ。
ただ蓮を信じてるって、呪文のように繰り返しているだけじゃダメだ。蓮を信じてるのは本当だけど、根拠もなく繰り返していたって、何の力もない。
必要なのは、僕が強くなること。
もっと自分の気持ちに、自信を持つことなんだろう。
咲良くんのように、言葉で表現することは出来ないけど。蓮を思う気持ちは、絶対に負けない。
誰より僕が世界で一番、蓮を愛してる。
それだけは、誰にも譲れない。
……だから僕は、僕自身を信じるように、蓮の気持ちを信じたい。