【南国荘U-G】 P:12


 だから修学旅行で僕を撮ったのは、当然なんだ。なんて。不機嫌な顔で横を向いてしまっている蓮。本当は照れてるんだって知ってる。
 ラジャさんの言葉が蘇っていた。蓮が僕を好きでいてくれた時間を信じなさいって。
 蓮はずっと僕を待っていてくれた。いくら咲良くんがいい子でも、蓮が揺らぐなんてありえない。
 僕は今度こそ心の底からほっとして、背後のカレンダーを振り返った。

「ねえ、蓮」
「なんだ?」
「再来週の月曜、空白になってるけど。まだ仕事入れてないの?」
「ああ。今のところは何も」
「じゃあね、僕が代休取れたら、月曜まで長崎滞在、伸ばしてもいい?」
「代休?」
「うん。きっと今週は土日も出勤だから、編集長に頼んでみようと思って。ダメ?」

 首を傾げて尋ねると、予想通り蓮は優しい表情で頷いてくれた。
 何でも言えって。彼はいつも言ってくれるんだ。
そう言われても僕は、いつも蓮に助けてもらってばかりだから。あんまりワガママとか、言ったことないけど……今はすごく、甘えたい気分になっていた。

「珍しいな、お前がそんなこと言うの」
「イヤならもう言わない」
「全く問題ねえよ。
もっとワガママなこと言え。なんでも叶えてやる」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあね、明日は豆腐ハンバーグが食べたい。ヒジキが入ってるやつ」
「なんで急に、豆腐ハンバーグなんだ?」
「この間、食べ損ねたから」

 蓮の用意してくれていた晩ご飯、喉が通らなくて断ってしまった。
あの時もう食べたから、なんて嘘をついたこと、きっと蓮はわかってる。でも言わないでいてくれる。

「わかった」
「うん、嬉しい。ありがと」
「大したことじゃねえよ。他には?」
「ん〜…あの、ね」
「なんだ」
「まだ仕事、残ってる?」
「いや…千歳?」
「このまま蓮の部屋に、行きたいな」

 こういうこと、自分で言うことはめったにないから。口にした途端、恥ずかしくなってしまう。
 真っ赤になっている自覚のある顔を、蓮の首筋に埋めて隠してしまった。
 だから、見えなかったけど。蓮はきっと、幸せそうに笑ってくれたと思うんだ。