「ご、ごめん。オレ、嫌なこと言った?」
「嫌いなんだ」
「え?」
「ぼくは虎臣くんみたいに、カッコよくないから。自分の顔が嫌いなんだ」
言うや否や、二宮さんは席を立って、足早にダイニングを出て行ってしまう。
「ちょ、二宮さん!」
呼び止めたけど、振り返ってくれなくて。オレは遠ざかる足音で、二宮さんが二階へ上がって行ったのを知った。
バカだオレ……何も考えずに二宮さんを傷つけるようなこと、言ったんだ。
だってそんな二宮さんが自分の容姿を気にしてるなんて、全然想像してなかったから。
そりゃ確かに、黙ってたら少し、暗い印象に見えるかもしれないけど。黒目がちな瞳とかすごい可愛いのに。二宮さん童顔だし、髪とか輪郭とか優しい柔らかいイメージで……気にしてるなんて、思いもしなかった。
力が抜けて、イスにへたり込んだオレは、二宮さんの淹れてくれたお茶を飲む。
「…美味しいな」
でもこんな広いダイニングで、一人でお茶を飲むなんて。どんなにお茶が美味しくても寂しいよ。
南国荘に来るまで、ずっとマンションで一人だったのに、おかしいな。
でもオレはどうにも耐え切れなくて、淹れてもらったお茶を一気に飲み干すと、湯呑みを洗って部屋へ戻ることにした。
学校の友達に借りたCDを聞こうとイヤホンをつけたけど、流れてくる音楽が少しも耳に入らない。
オレはそのままベッドに転がって、溜め息を吐きながら天井を見上げた。
なんだか最近、色んなことが上手くいかない。オレって自分が思ってるより、ダメな奴なのかな。
咲良さんにも、二宮さんにも、余計なことを言ってしまっている。
酷いことを言ってる、と咲良さんに責められたのは、咲良さんがギリシャへ帰国する前の夜。蓮さんのことを諦めてほしいと、話した時だ。
咲良さんにあんなこと言って、もう嫌われちゃったかなって、思ったんだけど。日本に戻ってきた咲良さんの態度は、何も変わらなかった。
謝るオレに、いいんだよって。オレは千歳さんの味方でいいって、笑ってくれたんだ。
それから、オレの頼みは聞けないけど、真剣に話したことは、嬉しかったよって言ってくれた。
咲良さんのその言葉を聞いて、すごいほっとしたんだ。俺の方こそ、泣きそうに嬉しかった。
嫌われたくないよ。咲良さんはほんとに優しいし、そばにいると楽しいんだ。
でもさ。酷いこと言ったのは、いくら咲良さんが許してくれたとしても、もっと反省しなきゃいけなかったよね。
だからきっと二宮さんにまで、余計なことを言ってしまった。
そんなに気にしてたんだ……二宮さんって年下のオレから見ても、可愛い雰囲気だし。容姿を気にしてるなんて、本当に少しも考えてなかったんだ。
もっと明るい感じに笑ってくれたら、そんな顔を見られたら嬉しいなって、ここ何日かずっと思ってたから。つい言っちゃったんだけど。