【南国荘U-H】 P:05


 コンプレックスって、誰にでもあるよね。
 
他人から見たら長所でも、本人には短所かもしれない。そういうの指摘されたら、どんな言葉でも嫌な気持ちになるに決まってる。

 謝ったらもっと傷つける?黙ってた方がいい?
どっちを選択しても二宮さんに許してもらえないんだったら、謝りたい。これって自己満足なのかな。

 南国荘で二宮さんと一番喋ってるのって、オレだと思うんだ。そのせいか、最近の二宮さんは何かで迷ったとき、救いを求めるような顔で、オレを見てくれるようになった。
 中学生に言われたくないだろうけど、そういう表情がなんだか幼く見えて、すごく可愛いんだよね。頼られてる感じが嬉しい。
 嫌われたくないな……
謝りに行こうかな。
 でも二宮さんは、本当に些細なことで傷ついて、自分を責めるから。オレが謝って、また二宮さんを後悔させるなら、言わない方がいいんだよね。
 どうしよう……答えを決められない。

 二宮さん、傷ついた顔してたよね。
 傷つけたのは、オレなんだ。
 謝ってしまうのは短絡的?だったらどうするのが、二宮さんの救いになるんだろう。
 自分の顔が嫌いだって言ってた。オレみたいじゃないからって。
 そうかな……オレは自分の顔、そんなに好きじゃないよ。カッコいいっていうのは、蓮さんみたいな人とか、咲良さんみたいな人だと思う。
 それに千歳さんみたいな優しい顔とか、二宮さんみたいな可愛い顔だって、人を惹きつけるんじゃないかな。
 顔だけだったらオレは、蓮さんや咲良さんみたいな男っぽい顔より、二宮さんが時々笑うときの、可愛い表情の方が好きだし。

 堂々巡りの思考に嫌気が差して、オレはイヤホンを外し、部屋を出た。
 隣が二宮さんの部屋。
 どうしようか、すごく迷ったんだけど。謝る言葉が思い浮かばない。
 あーもう……なんであんなこと言っちゃったんだろう。情けない自分に、溜め息しか出てこない。
 しばらく立ち止まっていたオレは、結局どうすることも出来なくて。反対方向に歩き出し、階段を下りた。
 
 
 
「まだ起きてたのか」

 急に声を掛けられて、冷蔵庫の前にいたオレは後ろを振り返った。

「蓮さん」

 蓮さんは裏庭からの勝手口に立って、オレを見ていた。
 スーパーの袋を手にしてる。こんな時間に買い物?

「まだ12時過ぎじゃん」
「明日、起きられるのか?」
「大丈夫だよ。それより、そっちこそ。こんな時間に買い物?」
「ああ」
「千歳さんは?」
「俺の部屋で寝てる」

 さらっと言われたけど……それってさ。
 まあ、いいか。
恋人同士なんだし、いまさらだよね。

 キッチンのカウンターに置いてあるイスに腰掛けて、黙々と作業を始めた蓮さんのことを見つめる。
 買って来たのは豆腐とひじき。まさかまた豆腐ハンバーグ?先週出たじゃん……嫌いじゃないけど、どうせなら肉のハンバーグ食いたい。
 でも、口には出さないよ。食事に関しては、何を言ったって聞いてもらえないの、南国荘に来てから経験済み。