諦めがちに蓮さんの作業を見ていたら、にやりと笑われた。
「悪かったな、肉じゃなくて」
「何も言ってないじゃん」
「いいのか?そんなこと言ってて」
そう言いながら蓮さんは、冷蔵庫を開けると、チルド室から何かを出して、オレに見せてくれた。
いくら料理できなくてもわかる。オレが食べたかった肉たっぷりのハンバーグ!
「…なんでわかんの。オレの食いたいもの」
「顔に書いてある」
「書いてるわけないって。じゃあ豆腐の方はどうすんの?それいま買ってきたんだよね」
「千歳が食いたいと言うんでな」
「…千歳さんが?」
「ああ。どうやら明日は遅くなるらしい。家で食うのは朝メシだけだろ」
……びっくりした。
千歳さんが食べたいと言ったからってだけで、明日も早いのにわざわざ買い物行って、こんな深夜から料理を始める蓮さんに。
それと、蓮さんにワガママを言った千歳さんにも。そんな姿、全然想像できない。
「千歳さんが食べたいって言ったから、今から下ごしらえすんの?」
「そうなる」
「大変じゃん」
「大したことじゃないさ」
平然と言いながら、蓮さんはボールに水を張ったり、野菜を刻んだりしてる。
オレはカウンターに寄りかかって、料理してる蓮さんを見ていた。
蓮さんは言葉の少ない人で、あまり喋らない。いつだって、ちょっとムスっとした顔をしてるから、最初はイヤな奴だと思ってた。
でも蓮さんって、確実に人の心を動かすようなこと、さらっと言うんだ。少ない言葉の中に、大事なことを全部詰め込む。
余計なこと、何も言わない。
必要なことは、黙って行動に移す。
そういうの昔から?って榕子さんに聞いたら、そうねえって笑ってた。子供の頃から喋らないのは、よく喋る自分のせいかもって。
じゃあオレは逆に、理子があんまり喋らなかったから、よく喋るのかな。理子が普通に喋るようになったのって、千歳さんと暮らしだしてからだもん。
「何かあったか」
ほら、今も。
こっちを向きもしないくせに、蓮さんにはオレのことなんかお見通し。
「…あのさ」
時々オレはこんな風に、深夜のキッチンにいる蓮さんと話すんだ。誰もいない静かな場所だから、素直になれるような気がする。
「その豆腐ハンバーグ、千歳さんが食べたいって言ったんだよね」
「ああ」
「蓮さんには千歳さんも、そんなワガママ言うんだね」
「たまにな」
「そういう相手…誰にでも必要だと思う?ワガママ言ったり、甘えたりとか」
蓮さんは手を止めて、オレの方を向いた。
大事なことは目を見て話すの、榕子さんと一緒だ。
「頑張るのも、我慢するのも、大事なことだと思うんだ。でもそればっかりじゃ、しんどいんじゃないかな」
「…二宮か」
「うん。オレ…余計なこと言って、二宮さん傷つけちゃったみたいだから。謝りたいんだけど、謝ることでいっそう二宮さんを、嫌な気持ちにさせちゃう気がして」
「………」