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【南国荘Ⅱ-⑨】 P:07


「何が出来るかなって、ずっと考えてたんだけど。もう少し二宮さんって、自分の気持ちを言った方が、楽になるんじゃないかと思ったんだ」

 どう言っても二宮さんを傷つけるなら、彼がもっと笑えるように、オレに出来ることないかなって思ってさ。そうしたら、
オレより蓮さんが相手の方がいい気がしたんだ。

「ねえ、もうちょっと二宮さんに、優しくしてあげてくれないかな」
「俺が?」
「うん…二宮さんってさ、蓮さんの家事を手伝って、それが役に立ってるってわかる瞬間が、一番嬉しそうじゃん」
「………」
「だからたとえばその、よく出来たときは、褒めてあげたりとか。そしたら二宮さん、もっと嬉しいんじゃないかな」
「お前が褒めてやればいいだろ」
「ダメだって…傷つけたって言ったじゃん。蓮さんにだったら、二宮さんも甘えられるように、なるんじゃないかと思うんだけど」

 少し思案するような顔で、腕を組んでいた蓮さんは、ふいに「甘えるってのは」と呟いた。

「え?」
「甘えるって行為は、他人から自分は愛されているんだと、自覚することだ」
「蓮さん…」
「愛されているという言葉が重いなら、大切にされていると言い換えてもいい」
「…うん」
「俺が何を言っても、二宮は甘えたり出来ないだろ。二宮が甘えているのは、お前だ」
「オレ?!」
「ああ。俺にはそう見える」

 なんか、顔が熱くなってくる。そんなこと考えたこともなかった。
 だって現にオレは二宮さんを傷つけたし。
それに笑ってくれた顔だって、ほとんど見たことないんだよ。

「思ったことは俺の口なんか借りず、お前が直接言えばいい」
「でもさ…思いつきで言ったからオレは、二宮さんを傷つけたんだよ?」
「他人を傷つけることが怖いなら、一生一人でいるしかない。二宮にしても、お前に甘えたいなら、お前の失言を許すしかないんだ」

 何を言ったのか知らないけどなって、そう言いながら蓮さんは、料理を再開した。
 追求されないのは、オレを信じてくれているからかな。そうだと嬉しいけど。

 オレね、南国荘に来たばっかりの頃、ものすごい蓮さんに反発してたんだ。
千歳さんを取られたくなくて、嘘ついて取材先の京都から、帰ってきてもらったり。
 あれはほんと、今でも後悔してる。夜通し運転した蓮さんは、一歩間違ってたら事故を起こしていたかもしれない。

 だってさ、小さい頃からずっと、オレは千歳さんが好きだったんだよ。なのに蓮さんはいきなりオレたちの前に現れて、千歳さんの気持ち掻っ攫っちゃったんだもん。すごいムカついてさ。
 でも蓮さんの千歳さんに対する気持ちは、高校時代からずっと変わらないんだって知って。時間でも重さでも、到底敵わないんだってわかって。
 なんとか千歳さんを諦めたオレは、ようやく冷静にこの人を見られるようになった。
 ……
そしたら蓮さんって、すごい人だったんだよね。

 オレも大人になったら、こんな風になれるかな。自分がやるべきこと、文句言わず出来る人間に。