【南国荘U-H】 P:08


 そうなれたらいいって思うから、蓮さんがオレを信用してくれるのは、嬉しいよ。

「…謝った方がいいと思う?」
「お前は自分が、間違ったことを言ったと思っているのか?」
「ん〜…ううん。余計なことだったかもしれないけど、内容的には間違ってなかったと思う」
「だったら謝ることはない」
「そうかな…」
「案外、
二宮も怒ったこと、後悔してるんじゃないか?」

 肩を竦めて頬を緩めた蓮さんは、いきなりオレに「歯は磨いたか?」って聞く。これからだと答えたら、片手鍋を持ったまま近づいてきた。

「虎臣、口あけろ」
「ん?」

 言われたとおり、口を開ける。菜箸で押し込まれたのは、なんか優しい味付け。ほんのり生姜の味がしてる。これ大根だ。じっくり煮られてて、もうとろとろ。

「旨いか?」
「うん、美味しい。大根?」
「鶏大根」
「オレ、野菜嫌いだったのになあ」

 理子の料理でも、嫌々食べてたのに。最近じゃ大根とか白菜とか、全然平気。
さらに二宮さんが作ってくれたものなら、今でもまだ苦手なニンジンさえ、美味しく食べられる。
 鍋を置いた蓮さんは、優しい表情になっていた。

「好みも気持ちも、人間の心は変わる。変わることが自体が悪いんじゃない」
「…うん」
「大切なものを失わないなら、どんなに変わってもいいんだ。人を変えられるのは結局、人だけだしな」
「蓮さん…」
「お前が真剣に向き合った結果なら、二宮も変わるだろ。やれるだけやってみろ」

 俺に頼るなって、言いたいのかな。でもそれは、お前なら出来るって意味だよね?
 二宮さんのこと、すごく傷つけてしまったかもしれないけど。蓮さんがそう言ってくれるなら、もう少し頑張ってみようかな。

「わかった…やってみる」
「協力ぐらいはしてやるよ」
「ほんと?」
「ああ」
「わかった。…オレはもう寝るけど、蓮さんまだ起きてんの?」
「いや、そろそろ寝るさ」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」

 水持って部屋へ戻る途中、リビングを出る寸前に振り返った。
 蓮さんの姿が、キッチンの光の中で浮かび上がってる。
 なんか蓮さんと話せて、ほっとした。
 こういういの、
本当はお父さんである千歳さんに話す方がいいのかもしれないけど。いまだにオレ、千歳さんにはカッコ悪いとこ見せたくなくて、肩張っちゃうんだよな。
 蓮さんがすごいのは、もうわかってる。正直いまんとこ、敵うとは思ってない。だからさ……少しぐらい弱音吐いて相談したって、いいよね?

 階段を上りながら、ふと思い出した。
 オレ、蓮さんに甘えてるかな。さっき蓮さん、甘えるのは愛されてるのを自覚することだって、言わなかった?
 うわ気付いたら、急に恥ずかしくなってきた。だってオレ、自分が蓮さんに大事にされてるのわかってるから、平気で甘えてられるんだ。
 あ……でもいいや。
 今度何かで意地悪言われたら、だってアンタ、オレのこと愛してんじゃんって言ってやろう。
蓮さん、びっくりするかな。