二宮さんは蓮さんの言うとおり、オレの言葉で席を立ってしまったこと、後悔してたみたい。翌朝、オレの部屋の前で待ってた二宮さんに、謝られてしまった。
蓮さんには謝らなくていいって言われたけど、やっぱりオレも謝ってしまって。二人で謝りながら、その自分たちの様子がおかしくて笑ってしまう。
やっぱり二宮さんは、笑うと可愛い。
もう言わないけど……前髪切ればいいのにって、また思ってしまった。だって目が隠れて、せっかくの笑顔が見えないんだもん。もったいない。
どうなることかと思った南国荘は、何事もなかったかのような日常風景。
咲良さんは相変わらず蓮さんにまとわり付いてるし、榕子さんは相変わらずにこにこしてるし、二宮さんはちょっと困った顔で黙ってる。
この状況、楽しいけど。もう少し変えたいんだ。
でも何をしたらいいんだろ?
オレもオレで、相変わらず答えの見つからない、自問自答の真っ只中。
そんな毎日の中の、月曜日。今日は珍しく、夕飯の席に全員が揃っていた。
仲のいい南国荘だけど、こうしてみんなが揃って食事するの、ほんと珍しいんだよ。
とくに伶志(レイシ)と雷馳(ライチ)が、みんなと同じ時間にダイニングで食事するなんて、めったにない。千歳さんも忙しい人だしね。
咲良さんと二宮さんが、初めて南国荘に来たとき以来じゃないかな。
今日の夕食は全員揃ってるせいか、鍋。これも珍しい。
人数が多いし、榕子さん以外は男ばっかりだから一つじゃ足りなくて、広いダイニングテーブルに土鍋が二つ並んでる。
片方は鶏鍋。もう片方はキムチ鍋。
ほんとに蓮さんは、見た目によらずマメな人だ。
「足りてるか?」
「すでにお腹いっぱ〜い。蓮さん、座る前に酒の追加よろしく」
伶に言われて蓮さんは文句も言わず、キッチンに逆戻りした。ほんと伶って、あっけらかんと蓮さんをこき使う。でもよく考えたら雷だって、隣で黙って便乗してるんだよね。
お酒と一緒に戻ってきた蓮さんは、自分の席には座らず、ちらりと千歳さんを見て、話を切り出したんだ。
「タイミングよく全員揃っているから、いま言っておく」
何事かと、驚いてしまう。
ほんと今日は珍しいことばっかりだ。蓮さんが話の口火を切ることなんて、めったにないのに。
「明後日の水曜から、翌週の月曜まで、俺と千歳は家を空ける」
「そーなんだ、取材?」
「半分はな」
「何それ。半分って」
「ついでだから、週末と千歳の代休を利用して、観光でもするかって話になったんだ」
蓮さんの言葉を聞いて、その場の全員がぽかんとした表情になってしまった。
だってこの二人がそんなこと言うなんて、想像もしてなかったから。
「…二人で旅行、ってこと?」
「ああ」
「どこ行くの?」
「長崎」
何でもないことのように言いながら、蓮さんはつけていた腰から下の長いエプロンを外し、カウンターに置いてる。
伶が素早く「カステラの街だね〜」と、ねだるような声で言った。