「まあな。買って来いって言うんだろ」
「ところが蓮さん、実は枇杷ゼリーも美味しいんだって。もちろんカステラは当然だけどね。梅壽軒でよろしく」
「…覚えてたらな」
「大丈夫。どうも一日の限定数があるみたいだから、予約しとくし。お金払って受け取ってきて」
「…お前のその、甘味に対するムダ知識には、毎度のことながら呆れる」
「長崎のカステラと言えば梅壽軒でしょ、有名じゃない。まさか知らないの?千歳さんは知ってるよね。雑誌でもけっこう…」
まだまだカステラの話を続けようとする伶を遮って、咲良さんが口を挟んだ。
「ボクも一緒に行きタイナ」
はっとした。そうだよ、咲良さんがそう言わないはずない。
伶がちょっと困った顔で、雷と顔を見合わせている。そうか、カステラの話を続けてたのって、咲良さんをけん制してたんだ。
「ボクもツレテ行ってヨ、レン。ナガサキの街、見てミタイ」
「さっくんさあ…」
「シュザイのジャマはしないカラ。…イイヨネ?チトセ」
にこにこしてるけど、譲る気がない咲良さんの表情。思わず口を出そうとしたら、隣に座ってる千歳さんが、ぐっとオレの腕を掴んだ。
「千歳さん…?」
「いい加減にして」
きっぱりした声。思わず顔を覗き込んだ。千歳さんは少し青ざめてて、でもまっすぐに咲良さんを見ていた。
「チトセ…何?」
「曖昧な僕の態度が、一番悪かったと思ってる。でももう、いい加減にして欲しいんだ。僕の前で蓮を口説いたりしないで」
「デモ…ソレハ」
「君が素敵な人なのはわかってる。真剣だってことも、ちゃんと知ってる。だからこそ、もう限界なんだ。蓮のことは相手が誰でも譲らない。君がどんなに蓮を好きでも、世界で一番、蓮を愛してるのは、僕だ」
信じられなくて、目を見開いていた。
千歳さんは今まで、こんなにまっすぐ蓮さんへの気持ちを言ったことない。愛してるなんて言葉、千歳さんの口から聞いたことないのに。
しん、とその場が静まり返る。
オレの腕を掴んでいる千歳さんの手は、震えてた。
「…レンの気持ちは、キミの決めるコトじゃナイヨ」
「咲良さん」
「ダレのアイを受け取るか。キメルのはボクでもチトセでもない。レンだよ」
「そうだな」
ゆっくり歩いてきた蓮さんが、千歳さんの頭を自分の方へ抱き寄せる。
たぶん二人は、この場で宣言することを前もって決めていたんだろう。
ほっとした顔になって、でも辛そうに眉を寄せて。泣くのを堪えてるみたいな表情の千歳さんは、蓮さんに顔を押し付けて目を閉じていた。
「俺の気持ちを決めるのは俺だ。だからこそお前には、諦めろと言うしかない」
「ボクじゃダメって、言いタイの…?」