色んなものを振り切りたくて、駆け込むような勢いで、自分の部屋に戻った。
苦しいし悲しいけど、誰かに慰めて欲しいとは思わない。一人になりたかったんだ。
トラオミは「チトセの味方」だったんじゃない。
レンとチトセの絆がどれほど深いか、知っていたから。
ボクが傷つかずに済む道を、ずっと探していてくれた。
レンが愛しているのは、チトセ。
たとえボクがチトセにようになっても、レンはボクを受け入れない。
ボクはボクであって、チトセとは違う人間なのだから。
不思議なくらい自然に、レンの言葉を理解して、受け止めているんだ。
寂しさや苦しみも、痛みや辛さも、自分の中にあるんだけど。チトセとレンに対する、恨みがましい気持ちが沸いてこない。
わかっていた。きっと。
こうなることは、予感していた。
目を逸らしたかったから、時間を惜しむように、レンを口説いていたんだ。終わりを予感するからこそ、レンに対する愛の言葉は止まらなかった。
いつか過去の宝物として、心の中へ封じなければいけないんだと、わかっていたから。
そんなボクを黙って見ていたチトセは、どんなに苦しかっただろう。そのチトセを見つめるレンは、どんなに切なかっただろう。
二人が与えていてくれた優しい時間が、終わった。
ボクはもう、目を覚まさなければ。
悲しい恋の終焉から、逃げてはいけない。
チトセのことは、こうなってもやっぱり、大好きだと思う。
泣きそうな顔をしていたね。ボクを傷つけることは、彼にとって自分が傷つくのと同じくらい、辛いことだったんだ。
なんて温かい魅力的な人。彼がレンの愛している人。
チトセが相手でなければ、ボクはレンを諦めようとはしなかっただろう。
そうだね……諦めなくちゃいけないんだ。
机に飾ってあったレンの写真を、フレームから抜いた。
可愛い寝顔。今でも愛しいよ。
五年前、この写真を見たときの感動は、まだ鮮明に覚えてる。疲れきった表情で眠る彼を、抱きしめてあげたかった。
ボクにも誰かを愛せるんだって、教えてくれた写真。
それからのボクが手にした、たくさんの幸せな時間。誰かを愛せる幸福と、誰かに愛されることの陶酔。
レンにもらったものはどれも、大切なことばかり。
だからこそボクの愛は、レンに捧げたかったんだけど。
「ハハ…」
ダメだ。
いくら聞き分けのいい言葉を並べて、自分を納得させても。胸が痛くて仕方ない。
悔しいよ、悔しい……!どうしてボクじゃダメなんだろう。もっと早く、チトセよりも先にレンと会えていたら。
誰よりも愛してる。今まで出会ったどんな人より、レンを愛してるんだっ!