【南国荘U-I】 P:06


 とても嬉しそうに。頬を緩めたトラオミのきれいな瞳から、とうとう涙が零れてきた。

「ありがと、咲良さん」

 その顔が、あんまりにも可愛くて。
 ボクはトラオミを抱えたまま、後ろのベッドに身を躍らせた。

「う、わっ!」

 びっくりしたトラオミの身体が、ボクに抱きついた。
 あったかいね。
 ここにいてくれるトラオミが、ボクを心配して部屋を訪れてくれた彼が、とても愛しいんだ。

「ねえトラオミ、キスしてイイ?」
「え?!な、なんでっ」
「カワイイから、トラオミ」
「いやオカシイでしょっ!オレ蓮さんの代わりなんかヤダよっ」
「カワリじゃナイ。
ボクはトラオミとキスしたい
「ちょ、待ってよもう…ダメだってば。そういうのは、好きな人とするもんだし…」
「トラオミはボクがキライなの?」
「そうじゃないけど…でもさ…」
「ボクも、トラオミがダイスキ」
「だから違…っ!んんっ、やっめ」

 抵抗しようとするトラオミの手をベッドに押し付けて、唇を塞いでしまう。強張っていく身体。ゆっくり手を離し、頭を抱え込む。
 甘い唇だな。震えてて可愛い。
 でも彼は、すぐにボクをドン!と押し返した。残念だけど、ちゃんと離してあげる。

「やだってば!」
「ヒドイ…そんなにイヤがらなくてもイイのに」
「そっちこそ!なんでそんな傷ついたみたいな顔するんだよっ?!反則でしょっ」
「サミシイんだモン」
「もん、とか言うなっ!大人のくせにっ」
「関係ナイヨ、オトナとかコドモとか。ナグサメに来てクレタんじゃナイノ?」
「日本人は慰めるときキスしたりしないっ」
「ボク、ギリシャジン」
「オレは日本人なのっ」

 ボクは思わず、笑い出してしまった。
 トラオミ、顔が真っ赤だ。
 捕まえていた腕から逃げ出して、ベッドで笑い転げるボクを睨んでる。

「すごい心配してたのに!」
「ウン、ウレシイよ」
「でも笑ってんじゃん!オレ、咲良さんがきっと落ち込んでるって思ってたから、なんて言おうかずっと悩んで、なのに…」
「本当にウレシイ。アリガトウ、トラオミ」
「…咲良さん」

 笑いながら、ボクは熱くなっていく目蓋を隠すように、手を乗せる。
 好意を向けられて、喜ばない人はいないんだと言ったレン。ボクの想いは嬉しいけど、受け入れられないんだって。
 彼がそう話してくれたのは、きっとチトセの為だけじゃない。ボクのためにも、レンは自分の手で終止符を打ってくれた。