【南国荘U-I】 P:08


 
 
 
 落ち着きを取り戻したせいか、
心が和らいだからか。けっこう深く、眠りに落ちてしまった。
 目を覚ましたボクは、時計を確かめ慌てて部屋を出る。
 もう7時を回っていた。トラオミのおかげでゆっくり寝られたけど、これじゃレンたちが家を出るのに間に合わない。
 いつもチトセが会社に行くのは7時半。もしかしたら今日は、もっと早いかもしれないのに。

「オハヨウ!」

 勢い良く飛び込んだリビング。
 ダイニングへ向かうと、キッチンにはレンじゃなくアオキが立っていた。ダイニングテーブルに、ヨウコさんとトラオミと。それから、少し眉を寄せて不安そうな顔をした、チトセがいる。

「おはよう、さくらちゃん」
「オハヨ!ヨウコさん、ラジャは?」
「ここよ」

 と、ヨウコさんの指さす方を見つめた。
 相変わらずボクには見えないけど、そこにきっとラジャがいて、彼には全てお見通しなんだろう。見えないラジャは、どこへでも行けんるんだから。

「ラジャ、オハヨウ!」

 いつもは何をしているのかな?そもそもラジャって、何なんだろ。
 今度ヨウコさんに、ちゃんと教えてもらおう。

「おはよ、咲良さん。今日からしばらく、二宮さんのご飯だよ」
「オハヨウ、トラオミ。ウレシそうだね」
「え?そうかな」
トラオミはアオキのゴハン、ダイスキだもんね?」
「あはは。確かにそうかも。だって二宮さんは、蓮さんみたいに食え食え言わないし。
おまけに美味しいし
「ボクもスキだな、アオキのゴハン。オハヨウ、アオキ。ムリしてナイ?」
「おはようございます、大丈夫ですよ。口に合うかどうか、わからないけど…今ご用意しますね」
「アリガト」

 アオキに笑いかけ、自分の席に座る。目の前はチトセだ。
 どうにも不安そうな顔のチトセは、何を話していいのか、わからないでいるみたい。ボクを見つめ、曖昧な表情のまま黙っていた。

「オハヨ、チトセ」
「うん…おはよう、咲良くん」
「レンは?一緒じゃナイノ?」
「蓮は羽田から一番早い便で、長崎に発ったんだ。僕は一度会社に行ってから、お昼の便で長崎に入る予定」
「ソウ。シゴトじゃ仕方ないケド、一緒じゃナイのはちょっとサミシイネ」
「咲良くん…」

 チトセが大好きなんだって、
ちゃんと伝わってるかな。
 もう彼と笑顔でレンの話をするのも、平気だよ。終わった恋に囚われていたって、誰も幸せになれない。
 ボクの顔をじっと見ていたチトセには、ちゃんと伝わったんだろう。すごく優しく笑ってくれた。

「しばらく家を空けるけど、その間よろしくね」
「OK、ダイジョーブ。ナンゴクソウのことは気にシナイで、楽しんでキテネ」
「ありがとう」
「レンにタクサンわがまま言って、タクサン甘えてキテ。ナガサキ行ったらチトセはパパじゃないんダカラ」

 ほわっと頬を染めたチトセが可愛い。レンの愛している人、こんな風に照れて笑うんだね。
今まで気付かなかった。