土曜日に決めた横浜。
それまでの時間、ボクはトラオミに持ってきてもらったチトセのガイドブックを見て、あれこれと思案をめぐらせる。
横浜にある洋館は、残念ながら鉄筋やレンガ造りのものがほとんど。一番ボクが興味を持っている、日本の木造建築技術と、西洋の様式が融合した建物は、見られないんだ。
本当はこの南国荘のような建物が、一番好き。洋館なのに瓦屋根。漆喰の壁とそれを支える太い柱。和と洋の見事な調和。
釘を一本も使わずに、これだけ大きな屋敷を建てられるなんて。すばらしい技術だよ。
レンにそう言ったら、残念ながらもうこの南国荘も、中身は現代的になってるけどなって笑っていた。
だけどそれ以外にも、横浜には行ってみたかった場所がたくさんある。
横浜市開港記念館は中でも、絶対に見ておきたい場所。あとは歴史博物館かな。
嬉しくてたくさん喋り続けるボクの話に、トラオミはずっと付き合ってくれている。
本当に優しい子。
彼の隣にいたら、ボクは自分の恋が終わってしまったことまで、忘れてしまいそうだ。
「ねえ、咲良さん」
「ナニ?」
「横浜に行くの、二宮さんが一緒でもいいかな」
「アオキ?」
「うん…まだケガ治ってないし、あんまり歩き回ったり、出来なくなっちゃうけど。土曜に行けなかった所は、また次に行こうよ」
トラオミの視線の先には、掃除機をかけているアオキがいた。
食事と洗濯だけでいいんだって、レンは言ったらしい。でも責任感の強いアオキは、全部の家事をレンと同じようにしなきゃいけないと思っているみたい。ずっと気の張った顔をしている。
心配なんだね、トラオミ。
そうだよ。人生は楽しまなきゃ。
「OK、モチロン。三人でイコウ」
「ありがと」
嬉しそうに笑って、トラオミはアオキの元へ歩いていく。一緒に行こうと誘うトラオミの言葉に、アオキは難色を示していた。
家のことをやらなきゃ、って声が聞こえてくる。困った顔をしてるトラオミを見て、ボクも立ち上がった。
ボクを心配し、一生懸命支えてくれたトラオミに、協力は惜しまないよ。
「イコウヨ、アオキ」
「咲良さん…いえ、でもぼくは」
「シゴト、イッパイ?そんなコトしてたら、また倒れるヨ。ジンセイは遊ぶタメのものナンダカラ」
仕事を頑張るのだって、結局は遊ぶ時間やお金を確保するためでしょ。そう言うとトラオミは、呆れた顔でボクを見上げたんだ。