さっきまでそこに、自分も混ざっていたのかと思うと、恥ずかしくなる。だってぼくだけが平凡で、誰が見ても浮いているだろう。
やっぱり虎臣くんを頼ってばかりじゃ、ダメだ。
ぼくみたいな存在と関わるより、あの子は咲良さんみたいな人と、明るい光の下で笑っているのが似合うんだから。
出会った日から、自分はゲイだと宣言していた咲良さん。
彼はつい最近、ずっと口説いていた蓮さんに、もう諦めろと言われた。
口火を切ったのは東(アズマ)さんだった。
世界で一番、蓮さんを愛しているのは自分なのだと。たとえ咲良さんでも、蓮さんのことはけして譲れないんだと、みんなの前で宣言した。
ぼくは東さんの強い言葉に、それを言われた咲良さんと同じくらい、動揺していたかもしれない。
東さんと蓮さんは同性で、仕事相手で。東さんには奥さんもいる。それでも堂々と蓮さんのことを愛してるって、言えるんだ。
人の気持ちは、常識なんかで計っちゃいけないんだって。そう言われたように思った。
誰の迷惑にもならないなら、正しいかどうかは自分で決めること。
ぼくみたいな何も出来ない人間は、他人に迷惑をかけるばかりだけど。東さんのように素敵な人なら、自分の気持ちに素直になるのは、間違いじゃない。
「二宮(ニノミヤ)さん!待っててっ」
咲良さんの背中を押しながら、虎臣くんはぼくに声をかけてくれる。
睦まじい二人の姿を、どうしようもない疎外感の中で見つめる。
自動販売機を前に話している姿。あの二人を見ていると、誰もぼくが彼らの連れだとは思わないだろう。
虎臣くんを見つめる、咲良さんの愛しげな表情に、ちくっと胸が痛んだ。
蓮さんに決定的な失恋をした咲良さんは、まる一日部屋から出て来なかった。でもそのあとは何でもない風に、楽しそうに東さんと接していた。
彼の中で、もう蓮さんへの想いはすっかり終わってしまったんだろうか。
そして、代わりだとでも言うように虎臣くんを構う咲良さんは、もしかしたら新しい気持ちを、スタートさせたのかもしれない。
……仕方ないよね。
カッコよくて、優しいし。虎臣くんに惹かれない人なんかいないだろう。二人の姿は、とても似合ってる。
でもそうしたら……虎臣くんはもう、今までのようにぼくのことを、気にしてくれなくなるのかな。そう思うと寂しくて、隠しようもない辛さを感じる。
ぼくはバカだな。
今までずっと助けてもらったのに。
まだ足りないとでも、言うつもりなんだろうか。
なんだか二人の姿を見ていると、息苦しくて逃げ出してしまいたくなる。
逃げたいと思うことは、今までにもたくさんあったけど。行くところがないぼくは、いつも仕方ないと諦めていた。