南国荘に着いた途端、ぼくは榕子(ヨウコ)さんへ帰宅の挨拶もそこそこに、キッチンへ向かう。
蓮さんはぼくを信用してくれた。自分のいない間、南国荘を任せるって。だから、同じようにしないと。
もし蓮さんだったら、どうするだろう?
出来合いを夕食にするとはいえ、スープくらいは作るはずだ。蓮さんならきっとそうする。
もう今から掃除機をかけるなんてムリだけど。洗濯くらいなら出来るはずだし、部屋干しで大丈夫なものだけでも。
そう考えたら、半日遊んでいたぼくに、時間なんか全然なくて。
お土産話に花を咲かせている咲良さんの声を聞きながら、慌しくエプロンに手を伸ばしたぼくは、それを察した虎臣くんに「ストップ!」と言葉通り引き止められた。
「何のために、お土産買ってきたと思ってんの?あとはみんなでやるから、今日は二宮さんお休み」
「で、でも」
「二宮さんが蓮さんに南国荘を任されたって言うなら、オレだって蓮さんに言われたんだよ、二宮さんに無理させるなって。一緒に聞いてたよね?」
確かに虎臣くんは蓮さんから、ぼくに無理をさせないこと、ぼくの手伝いをすることを、念押しされていた。
でもぼくは、せっかく任せてくれた蓮さんに応えたいんだ。
「あの…大丈夫だよ、これくらい」
首を振るぼくの言うこと、虎臣くんは頑として聞き入れない。
「絶対ダメ。咲良さん、雷(ライ)が降りてきたら用意してもらって。温めるだけなら、雷でも時間かからないから」
「OK」
「ほら、二宮さんはオレと来る」
ケガのない方の腕を掴み、虎臣くんは歩き出そうとする。
でも、虎臣くん。雷馳(ライチ)さんは夕食の席に、現れないこともある。ぼくらはまだお腹もすいていないけど、榕子さんがいつも夕飯を食べる時間は、もうすぐだ。
どう言えばわかってもらえるのか。おろおろと戸惑って、言葉が上手く出てこない。
「だけど…あの」
「あーちゃん、ゆっくりしてていいのよ」
「榕子さん…でも」
「じゃあ一時間休んで、それから降りていらっしゃい。待ってるから」
「トラオミのイウコト、間違ってナイヨ」
「咲良さん」
「アオキがムリしてガンバっても、なんの意味もナイ。そんなこと、ダレモ喜ばナイ。ミンナ心配するダケ」
咲良さんにはっきり言われて、ぼくはうな垂れてしまう。
すいません、と呟いたぼくの腕を、虎臣くんは強く引いて歩き出した。
階段を上る。二階で虎臣くんが向かったのは、ぼくの部屋。
「オレも入っていい?」
聞かれて、頷いて。
部屋に入った虎臣くんは、最初から用意されていたもの以外、ろくに物のないがらんとした部屋で、ようやく手を離してくれた。
「少し横になる?」
「ううん…平気…」
ぼくをベッドに座らせ、自分はイスを持ってきて、背もたれをぼくの方へ向けて座る。