【南国荘U-J】 P:05


 その背もたれに腕を乗せ、顎を置いて。虎臣くんはじっとぼくを見ていた。

「気にしてる?さっきの咲良さんの言葉」
「………」
「ギリシャの人って、みんなそうなのかな?咲良さんっていつもストレートだよね」
「…うん」

 頑張ることしか出来ないぼくに、咲良さんはそんなことをしても意味がないという。
 ぼくには、それしか出来ないのに。

「でも、オレもそう思う」
「虎臣くん…」
「千歳(チトセ)さんと蓮さんが長崎へ行ってから、頑張ってる二宮さんのこと、オレずっと見てたよ。二宮さんの作ってくれるご飯好きだから、毎日食べられるのは嬉しいんだ」
「………」
「だけどさ。ずーっと頑張ってる二宮さん見てたら、だんだん申し訳なくなって来る」
「そんな…!ぼくは、そんなこと」
「大丈夫、ちゃんとわかってるよ。…二宮さん、そんな顔しないで?」

 どんな情けない顔をしていたんだろう。虎臣くんの顔は、苦笑いになっていた。

「きっと二宮さんは、当然だと思ってやってるだけ。目の前にあること、一生懸命してくれてるだけなんだよね?でもオレは、悪いなって思う」
「ごめん…」
「違うよ。二宮さんが悪いんじゃなくて、これはオレの勝手な気持ち」
「…虎臣くん」
「家事だけで一日を潰していく二宮さん見てたら、どんどん申し訳ない気持ちばっかり大きくなって、嬉しい気持ちを忘れそうになるんだ」
「………」
「だからね、オレ今日は二宮さんと、違うことをしようと思ったんだよ」
「違うこと?」
「うん。料理とか洗濯とかじゃなくて。外でご飯食べたり、いつもと違うものを見たり。買い物したりね」

 はっとした。
 頑張ろうとしているのに、わかってくれない、なんて。勝手に嘆いて勝手に落ち込んでいたぼくは、なんて愚かなんだろう。
 虎臣くんがぼくを連れ出したのには、ちゃんと理由があったんだ。
 彼なりにぼくのことを考えて、南国荘から引っ張り出してくれた。

「ねえ二宮さん。一日南国荘を空けたって、何も変わらないよ。確かに誰も洗濯や掃除してないけど。それって明日、二日分やればいいだけだよね?何なら、明後日までかかってもいいんだし」
「虎臣くん…」
「オレも蓮さんのことは、そうとう器用だと思うよ。でも何もかも、最初から出来たわけじゃない。榕子さんに聞いたんだけど、昔は料理も炒め物ばっかりだったんだって。知ってた?」

 くすっと笑った虎臣くんは、ゆっくり慣れればいいじゃん、って言いながら、隣に来てくれる。
 整った顔が、ぼくの顔を覗き込んだ。

「家事、さ。二日分やるのは大変でしょ。ちゃんと手伝うからね」
「…うん」
「何でも言って。オレにも何かさせてよ。そしたら二宮さんは無理しなくて済むし、オレは申し訳ないと思わなくて済むし。いいことばっかじゃん」