月曜日の午後三時。今日は珍しく、南国荘のキッチンにぼく一人だけ。
伶志(レイシ)さんと雷馳さんは相変わらず忙しいみたいで、部屋に篭ってる。
榕子さんはお医者さんから帰って来たぼくと、入れ替わりに出掛けていった。今日はお友達とお酒を飲みに行くから、夕食はいらないって。
外でお酒を飲むなんて……なんだか意外。榕子さんには驚かされてばかりだ。
そういうわけで、キッチンのカウンターから見える、ダイニングからリビングまでの広い空間には、誰もいない。
だけど、ぼくの心は明るかった。
もうすぐ虎臣くんが帰ってくる。咲良さんも、夕食までには戻ると言っていた。
今日は虎臣くんが好きだという、カレーにしたんだけど。喜んでくれるかな。
昨日も、今日も。南国荘の家事が楽しい。
こんなにも広いお屋敷、掃除だって洗濯だって、人数が多い分大変だ。でも今のぼくは、蓮さんみたいに仕事と両立しなければならないわけじゃない。要領の悪いぼくだと、一日なんてあっという間だしね。
南国荘での家事は、みんなのために何かをすること。
誰かの笑顔を見つけるため、一生懸命に考えて、行動を起こすことだ。
どんな食事が喜んでもらえて、どんな風に片付ければ快適なのか。
難しいけど、自分なりに考えてみる。行動に移して待っていると、誰かが気付いて喜んでくれる。
想像するだけで、楽しくてしょうがない。
家事をこんな風に捉えて考えたこと、今まで一度もなかったから。
ぼくの任されている家事は、一応今日までだけど……蓮さんが帰ってきたら、少しでいいからこれからも手伝わせてもらえないか、聞いてみようかな。
ケガが治って仕事を見つけて、東さんに借りているお金を返して。それは大事なことだし、いつまでも南国荘にいられないのは、わかってる。
その日が近づいているのも、残念だけど事実だ。
でもぼくはもう、そのことを気に病まないことにした。仕事を見つけてここを出ても、なんとか近くに住めないか、考えるつもり。
東さんも「一緒に考えよう」って言ってくれた。そう言ってもらえたときは、嬉しいけど申し訳なくて、泣くばかりだったのに。
今は、東さんが長崎から帰ってきたら、ちゃんと相談しようと思ってる。
ごめんって言われるより、ありがとうって言われたい。
虎臣くんの言葉だ。
あの日からずっと、彼の言葉はぼくの中で、温かく大きく、存在し続けている。
当たり前のことなのかもしれないけど、ぼくには考えもしないことだった。
自分のすることが、人の迷惑になってしまわないか。そんなことばっかり気にしていたから。
でも考えてみたら、当然のこと。
自分のしたことで相手が申し訳なさそうに顔を歪めるのと、喜んで笑顔になってくれるのと。どっちが嬉しいかといえば、後者に決まってる。
だったら立場が逆になっても、答えは同じはずだ。
ぼくが下を向いて「すいません」って言うより、顔を上げて「ありがとう」って言う方が、感謝している気持ちは伝わる。