【南国荘U-J】 P:11


 
 
 
 兄は、誰にでも愛想のいい人だ。
 だけど時々、癇癪を起こして怒りを爆発させる。
 元々何でも出来る人で、何もかも思い通りにしているから。たまに自分の考えが通らないと、我慢できなくなるみたい。
 義父と母が再婚するまで、彼は誰にも知られないよう、物に当たってその怒りをやりすごしていたらしい。それをぼくが偶然見てから、彼のその怒りは、ぼくに向けられるようになった。
 最初は突き飛ばされたり、服で隠れるところを殴られる程度だった。
 もちろん驚いたけど、ぼくは逆らわなかったんだ。

 父と再婚して、いままで苦労していた母がとても幸せそうだったから。
 その母にとっての気がかりは、無能なぼくだけなのだと、知っていたから。

 一度だけ、身体の不調を母に悟られ、心配させたことがある。何があったのかと問われたとき、打ち明けようかどうしようか迷うぼくに、彼女は辛そうな顔で言ったんだ。
 お父さんには言えないから、自分にだけ話して欲しいのだと。
 ぼくは自分が、どれほど母に負担をかけているのかを、思い知った。

 それからは兄に何をされても、口を噤んでいた。母にも悟らせないよう、我慢した。
 何も出来ないぼくが、家族のためにできるのは、そんなことだけだったから。

 兄としても、両親に知られたくなかったんだろう。だけどそういうストレスが、どんどん兄を追い詰めてしまった。

 ……それがいつだったのか。何がきっかけだったのか。ぼくにはよく思い出せない。

 確か珍しく、学校で兄と話をしたような気がする。兄は友人たちに、ぼくを新しく出来た弟なんだと紹介してくれた。親しげに肩を抱いてくれたことに、驚いて。思わず兄の腕から逃げ出してしまった。
 そんなぼくの態度に、兄は腹を立てたのかもしれない。

 両親は仕事に忙しく、いつも深夜にしか帰ってこなかった。
 学校から帰ってきた兄は、先に帰っていたぼくを見つけると、何も言わず自分の部屋へ引きずっていった。
 また殴られるのだと思っていた。
 痛みを予感して、身を固くしていた。

 でも、兄は。
 ぼくを自分のベッドへ突き飛ばして。
 蔑みの言葉を吐きながら服を剥ぎ取り、同性であるぼくを、犯したんだ。