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「二宮、さん…?」
「あの人は」
「え?」
「…あの人は…ぼくを連れ戻すために、ここへ来たんだ…」
びっくりして目を見開いた。
どういう意味?二宮さんを連れ戻すって、だってそんな話、全然……。
「連れ戻すって、実家に?なんで?!」
「………」
「だって…あの、まさか今日とか明日って話じゃないよね?」
「………」
二宮さんは黙って、答えてくれない。
そんなの……勝手だよ、そんなの。
二宮さんはケガをしても、住むところがなくなっても、実家へは帰りたくなかったんだろ?その気持ちがわかるからって、千歳さんは二宮さんを南国荘に連れてきた。そういう話じゃなかったの?
呆然としながら、二宮さんの顔を見つめる。二宮さん、どうして答えてくれないの。
「二宮さんは、あの人と一緒に…帰り、たいの?」
オレが聞くと、二宮さんは弾かれたかのように顔を上げた。でもまた、すぐに伏せてしまう。
途中になってる洗い物、二宮さんの手は震えたまま止まってた。
「帰りたくないなら…」
「ダメなんだ」
「二宮さん」
「あの人が決めてしまったことは、絶対なんだ。誰も逆らえない」
「そんな!」
「従うしかないんだ…それしか、ぼくは…」
苦しそうな二宮さんを見ていられなくて、オレは咄嗟に細い腕を掴んだ。
何を言えばいいんだろ。
どうしたらこの人は、昨日と同じように……そうじゃない。ついさっき、何時間か前と同じように、笑えるんだろう。
「ね、二宮さん」
「………」
「二宮さんの部屋、ベッドひとつしかないよね」
「え…?」
「お兄さんに泊まってもらうなら、二宮さんオレの部屋においでよ。千歳さんのベッド空いてるから。ね?」
「虎臣くん…ぼく、あの」
「イヤじゃないよね?そうしようよ。お願いだから。いいよね?」
畳み掛けるように話しかける。こういう強引なやり方は、好きじゃないけど。二宮さんが押しに弱いのも、ちょっと優柔不断で自分では決められないのも、わかってて言ったんだ。
卑怯なやり方でごめんね。
だけどオレ、ちゃんと話がしたいよ。
迷う表情の二宮さんに、もう一度「お願い」って言おうとしたとき。誰かがオレから、二宮さんを引き離した。
「蒼紀は繊細な子だから。家族以外の人と一緒の部屋では、寝られないんだよ」
振り返ると、立っていたのはお兄さんだ。
あくまで優しげに、でも絶対に譲らない強引さで、二宮さんをオレから遠ざける。
「でも」
「ごめんね、虎臣くん。ありがとう。…蒼紀」
お兄さんは意味深な表情で、何かを二宮さんに囁いた。小さすぎて、オレには聞こえない。でも良くないことなのはわかる。だって二宮さん、元々顔色悪かったのに、いっそう青ざめていくんだ。