「どうする?蒼紀。虎臣くんの部屋へ行きたいか?」
改めてお兄さんに問われ、二宮さんは強く首を振った。
「あ、の…二宮さ…」
「ごめん、ごめんね虎臣くん、もういいから。本当にぼくのことは、もういいから。ごめんなさい」
「だけど」
「お願いやめて、それ以上言わないで」
「そんな」
「兄さん、部屋は二階なんです。あの、榕子さんには明日の朝、ちゃんとお詫びしますから。だからもう、今夜は…」
「そうだね」
焦った様子で言葉を重ねる二宮さんに、反論できなくなってしまう。
お兄さんは満足そうに二宮さんの髪を撫でると、オレを見て微笑んだ。
……嫌な笑い方。
まるで勝ち誇ってるみたい。
「じゃあ、俺たちはこれで失礼するよ。色々と気遣ってくれて、ありがとう虎臣くん」
「………」
「それでは咲良さん、失礼します。また明朝にでも」
「ン…アオキ、いいんダネ?」
咲良さんがちょっと深刻な表情で、二宮さんの意思を確かめてくれる。でも二宮さんは怯えたように頷いた。
「はい」
「OK。じゃあオヤスミ」
「おやすみなさい」
二人がダイニングから去っていくの、黙って見送ることしか出来なかった。
唇を噛んで悔しさを紛らわせようとするオレのこと、咲良さんがぎゅって抱きしめてくれる。
「咲良さん…」
「アオキが自分でキメタことダヨ」
「だけどっ」
「ン、ワカッテル…ナキソウな顔、シテタ」
「そうだよ…あんな顔して…なのに」
「トラオミ」
悔しいよ。オレは二宮さんに笑っていて欲しいのに。
「…オレのせいだ」
「チガウ」
「違わないよ!オレが悪い。オレが何も考えず、勝手に」
「チガウよ。落ち着いてトラオミ」
咲良さんはオレの肩を抱き込んで、何度も何度も髪を撫でてくれる。
「今日ダレモいない。トラオミの言ったことはトウゼンの判断デショ。その結果、アオキが望まないテンカイになったかもシレナイけど、トラオミは何度もタスケヨウとした」
「咲良さん…」
「デモ、アオキ自身がキョゼツした。ダレのせいでもナイ。ソレゾレが決断したケッカなんだから。トラオミは悪くナイ」
慰めてくれる手が温かい。咲良さんの優しい気持ちが伝わってくる。
いいのかな……こんな甘やかされて。
顔を上げたら、咲良さんはほっとするような柔らかい笑みで、オレを見ていてくれた。
「二宮さんのお兄さん、連れ戻しに来たんだって」
「アオキを?」
「うん…二宮さんがそう言ってた」
「ソッカ。ソレでトラオミは、タクサン後悔してるんダネ」
「うん…」
「ダイジョーブ。そんなことにはナラナイ」
「え?」