【南国荘U-K】 P:06


 
 
 
 ひとしきり榕子さんに話を聞いてもらったオレは、一応納得して部屋に戻ってきたんだけど。やっぱり隣のことが気になって、だんだん落ち着かなくなってきた。
 この部屋の隣は、二宮さんの部屋だ。

 嫌なこと言われたり、怒られたり、してないかな。
 泣きそうに歪んでいた顔が忘れられない。辛い思いをしていないといいんだけど。

 色々、考えてしまうんだ。
 ベッドに入っても、全然寝られない。

 オレには兄弟がいなくて、お兄さんって存在がよくわからない。
 そういえば南国荘の人って、一人っ子が多い。ちゃんと兄弟がいるの、榕子さんと千歳さんだけだ。千歳さんの妹って人には、一度しか会ったことないけど。
 双子みたいな伶と雷は、イトコ同士。
 二宮さんだって、お兄さんとは血の繋がらない兄弟だから。

 二宮さんも一人っ子だったんだよね。お母さんが再婚したって言ってた。
 言葉数の少ない二宮さんだけど、お母さんのことは時々、話してくれたんだ。
 お母さんは家事が苦手なこと、キャリアウーマンだってこと、コーヒーが好きなこと。でも二宮さん自身は、紅茶の方が好きなんだってことも。
 働きながら一人で二宮さんを育ててくれた、二宮さんのお母さん。どんな人なのかな?きっと優しい人なんだろうって思う。だってあの二宮さんのお母さんなんだから。
 仕事で忙しいし、家事は苦手だしで、再婚する前からずっと、子供だった二宮さんが、家事をやってたんだって。
 ちょっと理子(リコ)みたいだよね。
 そうだった。最初に二宮さんと話したいなって思ったの、オレたちが二人ともシングルマザーの子供なんだって、知ったときだ。

 お兄さんとは、最初から上手くいってなかったのかな。
 再婚する夫婦は、お互い好きだからいいけど、その子供同士の相性まではわからないよね。
 まあ……あの人を嫌いになる気持ちは、わかるよ。
 だってお兄さんは二宮さんのこと、何も出来ないなんて言うんだから。ちゃんと二宮さんを見てれば、そんなこと思うはずない。
 あの人は二宮さんのご飯、ずっと食べてたんでしょ?洗濯や掃除も、二宮さんにやってもらっていたはず。
 蓮さんを手伝ったとき「ありがとう」って言われるだけで、二宮さんは本当に嬉しそうな顔をするんだ。
 もしかして誰も、ありがとうって言わなかったの?
 毎日、二宮さんがしてくれることに。

 でもオレだって、偉そうなことは言えない。南国荘に来る前は、ずっと理子と千歳さんがやってくれるの、当然だと思ってたんだから。
 難しいね。
 毎日のことで、慣れちゃうよね。
 家族にありがとうなんて、なんか恥ずかしいし。
 だけど、寝起きに食べる朝ご飯は、自分より早く起きた誰かが、用意してくれるんだってこととか。先週着た服を今週も着られるのは、誰かが洗って干して畳んで、タンスにしまってくれたんだってこと。忘れちゃいけないんだ。