誰かのために何かするのって、難しい。
どうしたら喜んでくれるのか、たくさん考えなくちゃいけない。
でもその苦労をしてくれた人が、ありがとうって言葉で報われるんだとしたら、恥ずかしくても照れくさくても、言わなきゃいけないよね。
今のオレは、ちゃんと出来ているかな。
蓮さんや二宮さんに、感謝してるけど。ちゃんとそれを、伝えられているんだろうか。
二宮さんはすぐに「ごめん」って言ってしまう。蓮さんたちにも「すいません」って。
でも前に、ありがとうって言ってくれた時の二宮さんは、すごく幸せそうで。ドキドキするくらい可愛かった。
あの時本当に、何でもしてあげたいって思ったんだよ。
あんな風に感謝してくれるなら、オレは二宮さんにもっと、何かをしてあげたい。
だからオレも二宮さんのしてくれることに、ちゃんと嬉しいって伝えなきゃ。二宮さんは、何も出来なくなんかないんだから。
明日、蓮さんたちが帰ってきたら、二宮さんに一緒にいられて嬉しいこと、言ってみよう。
それでも二宮さんがお兄さんと帰るって言うなら、咲良さんが言うように、お願いしてみるのもアリかも。
オレの頼み方が可愛いかどうかは、知らないけどねって、我ながら苦笑いが浮かんだとき。
寝返りを打ったオレは、その小さな音に気付いた。
首を傾げて、身を起こす。
音ともいえないような、小さな気配。
でも絶対、間違えてない。
枕元の電気をつけた。それでもわからなくて、部屋の明かりをつけにいく。
何だろう……何の音?
正体が掴めず、眉を寄せたオレの視界。何かが横切った。
確かあっちへ……と目を遣る。壁際に葉っぱが何枚か落ちてる。
ベンジャミンの葉だ。千歳さんが部屋の隅に置いてる、腰くらいまで高さのある観葉植物。でも鉢は部屋の反対側なのに?
鉢のある方を振り返った。
オレの見ている前で、ベンジャミンの葉が不自然に一枚、木を離れて、ふらふらと部屋を横切っていく。
何……なんで?
戸惑っている間に、同じことがもう一度。
葉っぱは明らかに何かの力で動いてる。それは同じ壁を叩くようにぶつかって、同じ場所に落ちていく。
オレは部屋を飛び出していた。
ラジャさんは、誰にも触れることが出来ない。
でも木とか、水とか、自然のものには触れるんだ。花を揺らして見せてもらったこともある。
葉っぱが当たっていたのは、二宮さんの部屋に接している壁。
何かあったんだ。
ラジャさんが教えてる。
迷いもなく隣の部屋の扉を叩く。普段二宮さんは鍵なんか掛けないのに、ドアノブを回すと施錠されてる。
「二宮さん!二宮さんオレだよッ!!ここ開けて二宮さんっ!」
時間なんか気にしてられなかった。
大声で叫んでた。
榕子さんとなら直接話せるのに、ラジャさんはあえて、声の聞けないオレに知らせてくれたんだ。
何が起きてるの。二宮さんに何が。