【南国荘U-K】 P:08


「出てきてよ!二宮さんッ!」

 何度も呼んでるのに、返事がない。
 気が焦る。早く顔を見せてよ。何があったの。
 無理にでも、オレの部屋で寝てもらえば良かった。お兄さんと二人になんか、しちゃいけなかったんだ。
 それなのにオレ勝手に、泊まってもいいとか明日までいてほしいとか。
 どうしよう。二宮さんは、あんなに怯えていたのに。

「二宮さん!!」

 何度目か、ようやく鍵の開く音がした。
 でもそこからオレを見下ろしているのは、不機嫌な表情を隠そうともしない、お兄さんの方。

「何時だと思っているんだ、君は」

 怒りのこもった声で咎められる。だけどオレは、聞いていなかった。

「二宮さん…蒼紀さんは?!」
「もう寝ているに決まってるだろう?大体、何だというんだ不躾な…」
「どいてください!」

 お兄さんじゃ埒が明かない。
 オレは浩成さんの身体を押しのけ、強引に部屋へ入った。

 確かに二宮さんは、ベッドにいた。
 でも寝てるんじゃなく起きてた。
 起きて、オレから目を逸らしいていた。

「二宮…さん…?」

 どうしてそんなに、真っ青なの。
 なんでそんな震えてるの?
 服を掻き合わせて身を小さくしてる。目が赤くて……頬が、腫れてるんだ。

「っ!…二宮さんっ」

 オレは止めようとするお兄さんを無視して、二宮さんに近づいた。逃げ出してしまいそうな腕を捕まえる。
 びくって震えて、オレの手を振り払おうとするから。もう一度強く掴んだ。

「来て、二宮さん」
「虎臣くん…やだ、離して」
「離せないでしょ!?放っとけないよ!」
「っ…虎臣くん、ぼく」
「いいから。何も言わなくていいから、オレと来て。オレの言うこと聞いてっ」

 腕を掴んで、肩を揺さぶる。
 二宮さんは泣き腫らした目で、ようやく頷いてくれた。
 だけど二宮さんを連れて部屋を出ようとしたオレは、お兄さんに止められてしまう。

「何のつもりなんだい?」
「どいてください」
「子供の口を挟むことじゃないよ。蒼紀を離して部屋へ戻りなさい」
「どけよ!アンタなんかのとこに、二宮さんを置いとけるか!」

 何があったのか察しが付かないほど、オレは馬鹿でも子供でもない。
 こんなに怖がってる。オレの手を恐れるくらい、二宮さんは震えてるんだ。
 お兄さんを睨んで部屋を出ようとするけど、苦笑いを浮かべながら押し戻された。
 悔しい。オレの力じゃ敵わないの?

「君には関係のないことだ」
「アンタ、最低だ」
「いいから蒼紀を離しなさい!」

 二宮さんの腕を掴んでる肩に、お兄さんの手がかかる。力を込めたオレが二宮さんを離さない気だって知って、お兄さんの目に冷たい光が浮かんだ。
 手が振りあがる。
 殴られる!って思ったとき。
 部屋の外から伸びた手が、浩成さんを止めてくれた。