許せない。絶対、許さない。
なんでこんな酷いこと。血が繋がっていなくても自分の弟なのに。
オレは自分の部屋に二宮さんを入れて、ドアに鍵を掛ける。もう誰にも二宮さんのこと傷つけさせない。
寝乱れている自分のベッドじゃあんまりだと思って、きれいに片付いた千歳さんのベッドに二宮さんを座らせた。
手を握ろうとしたんだけど、強く振り払われて。オレは慌てて自分の手を引っ込める。
二宮さんは自分の身体を抱きしめて震えてる。部屋の温度は高めだと思うけど、寒そうに見えた。
……そうだ、お風呂。
「風呂入れてくるから、入る?…あったまると思うんだけど」
話しかけても返事はない。
無駄になってもいいと思って、オレはユニットバスにお湯を入れる。
あったまって欲しいのももちろんだけど、その……身体、洗いたいんじゃないかなって思ったんだ。
きっと、そういうことなんだよね?
あいつは二宮さんを、無理やり抱いたんだ。
犯罪じゃん、そんなの。兄弟でも男同士でも、けして許されることじゃない。
お湯を止めて部屋に戻ったら、二宮さんは声も立てずに泣きながら、小さく床に蹲っていた。
「二宮さん…そんなとこ寒いよ」
立ってもらおうと腕を掴んだんだ。
「触らないでっ!」
強く振り払われる。オレは動けなくなってしまった。
「触らないで、ぼくに触らないでっ」
「落ち着いて二宮さん、何もしないから」
「嫌だ…いや」
「お願いだよ、何もしない。もう触らないから…ごめんね」
どうしたらいいんだろう。どうしたら二宮さんを、これ以上傷つけずに済むんだろう。
悪いのはあいつだけじゃない……今回の原因を作ったのは、オレなんだ。
「ごめん…オレのせい、だね」
そう言うと、二宮さんは弾かれたように顔を上げ、激しく首を振った。
「違う!」
「二宮さん…」
「違う、違う!君のせいなんかじゃない!」
「でも」
「君は何も悪くないっ!何も、全然悪くなんかないんだ…っ」
手を握り締めて、悔しそうに唇を噛みながら、何度も首を振って。ぼろぼろ泣く二宮さんは、額を床に押し付ける。
「…悪いのは、ぼくなんだ…」
「そんな」
「ぼくがいるから…ぼくなんか、ぼくさえいなかったらっ」
どうしてそんなこと、言うの?
酷い目に遭ったのは二宮さんなのに。
オレは自分もそばに座り込んで、答えを出せないまま二宮さんを見つめる。
「…助けに行くの、遅くなってごめんね」
「っ…ふ、ぁ…ぁ」
「二宮さん…」
これ以上オレが謝ったら、二宮さんはもっと自分を傷つけてしまいそうだ。
オレは言葉を喪って、ただ泣き続ける二宮さんを見ていた。
どうしてオレは、こんなにも子供なの?かける言葉もろくに見つからない。
何かしてあげたいのに、何をしても二宮さんを傷つけてしまいそうで、怖いよ。