痛そうなくらい自分を抱きしめてる。ずっと震えて、泣き声を殺そうとして。
しばらくそばで、しゃがんでいたオレは、風呂の湯が止まったアラームを聞いて、なんとか顔を上げた。
「お風呂…入った方がいいよ…」
「…っ…ぅふ…っ」
「あったまって、ゆっくり休んで?オレので良かったら、着替えあるし」
すごく迷ったけど、ゆっくり二宮さんの肩に触れてみる。指先が触れた瞬間は、やっぱり細い身体が慄いて。でも今度は振り払われたりしなかった。
「ね、立って…」
もう怖がらせないように、出来るだけ穏やかに声を掛けながら、急がないよう二宮さんを立たせる。身体を任せてくれるのに安心して、オレは二宮さんを風呂へ導いた。
踵を返して着替えを用意する。
新しいもの方がいいよね。チェストからまだ袋を開けていない、下着とかシャツを取り出して、さすがにジャージは新しいのないから、洗いたてのを持ってきた。
二宮さんが洗ってくれたものだから、大丈夫だと思うんだけど。
「あの、入るね」
着替えを抱えて声を掛けたオレがユニットバスのドアを開けると、まだ二宮さんは服も脱がず、その場に立ち尽くしてる。
「これ、着替え。オレとあんまりサイズ変わらないよね?」
「………」
「あるものは何でも使ってくれていいから、身体を温めて…何かあったら声、掛けて。オレここにいるから」
「………」
返事はなかったけど、外へ出てドアを閉める。そのままずるずると、ドアに寄りかかって腰を下ろした。
背中越しのバスルームから、水の音が聞こえてきて、ほっとする。
でもオレは頭を抱えた。
なんだよ……なんでこんな酷いことするんだよ。どうして二宮さんを傷つけるの。
あいつは二宮さんが好きだってこと?そんなのオカシイじゃん。好きな人に無理やりなことして、何が楽しいの。
あんなに泣かせて。怯えさせて。
ラジャさんが教えてくれなかったら、朝まで二宮さんは、あいつのそばにいなきゃいけなかったんだよ。
苦しいよ。オレは今の二宮さんを見ているだけで、こんなに苦しいのに。あいつは何も感じないの?
蓮さんと千歳さんのことを知ったとき、二宮さんすごく嫌そうだった。
男同士で付き合うのなんかおかしいって、あんな激しい口調で言う二宮さん、あのとき以来、見たことない。
思い出しちゃったのかな、浩成のこと。
ふいにオレは、自分のたどりついた怖い考えに、ものすごく驚いた。
……まさかずっと、こんなことされてた?
それが理由で東京へ出てきたとか?
だってまさか、そんな。実家にはお母さんもいたはずなのに。
二宮さんが逃げ出すまで、誰も助けてあげなかったの?
考えすぎだよオレ……そんなこと、あるはずないだろ。
確かに浩成はイヤな奴だけど、こんな馬鹿なこと、何度も許されるはずがない。
ゆるく首を振って、ふと時計を見上げる。
二宮さんが風呂に入ってから、もうすぐ一時間が経とうとしていた。