【南国荘U-K】 P:11


 痛そうなくらい自分を抱きしめてる。ずっと震えて、泣き声を殺そうとして。
 しばらくそばで、しゃがんでいたオレは、風呂の湯が止まったアラームを聞いて、なんとか顔を上げた。

「お風呂…入った方がいいよ…」
「…っ…ぅふ…っ」
「あったまって、ゆっくり休んで?オレので良かったら、着替えあるし」

 すごく迷ったけど、ゆっくり二宮さんの肩に触れてみる。指先が触れた瞬間は、やっぱり細い身体が慄いて。でも今度は振り払われたりしなかった。

「ね、立って…」

 もう怖がらせないように、出来るだけ穏やかに声を掛けながら、急がないよう二宮さんを立たせる。身体を任せてくれるのに安心して、オレは二宮さんを風呂へ導いた。

 踵を返して着替えを用意する。
 新しいもの方がいいよね。チェストからまだ袋を開けていない、下着とかシャツを取り出して、さすがにジャージは新しいのないから、洗いたてのを持ってきた。
 二宮さんが洗ってくれたものだから、大丈夫だと思うんだけど。

「あの、入るね」

 着替えを抱えて声を掛けたオレがユニットバスのドアを開けると、まだ二宮さんは服も脱がず、その場に立ち尽くしてる。

「これ、着替え。オレとあんまりサイズ変わらないよね?」
「………」
「あるものは何でも使ってくれていいから、身体を温めて…何かあったら声、掛けて。オレここにいるから」
「………」

 返事はなかったけど、外へ出てドアを閉める。そのままずるずると、ドアに寄りかかって腰を下ろした。

 背中越しのバスルームから、水の音が聞こえてきて、ほっとする。
 でもオレは頭を抱えた。
 なんだよ……なんでこんな酷いことするんだよ。どうして二宮さんを傷つけるの。
 あいつは二宮さんが好きだってこと?そんなのオカシイじゃん。好きな人に無理やりなことして、何が楽しいの。
 あんなに泣かせて。怯えさせて。
 ラジャさんが教えてくれなかったら、朝まで二宮さんは、あいつのそばにいなきゃいけなかったんだよ。
 苦しいよ。オレは今の二宮さんを見ているだけで、こんなに苦しいのに。あいつは何も感じないの?

 蓮さんと千歳さんのことを知ったとき、二宮さんすごく嫌そうだった。
 男同士で付き合うのなんかおかしいって、あんな激しい口調で言う二宮さん、あのとき以来、見たことない。
 思い出しちゃったのかな、浩成のこと。
 ふいにオレは、自分のたどりついた怖い考えに、ものすごく驚いた。
 ……まさかずっと、こんなことされてた?
 それが理由で東京へ出てきたとか?
 だってまさか、そんな。実家にはお母さんもいたはずなのに。
 二宮さんが逃げ出すまで、誰も助けてあげなかったの?
 考えすぎだよオレ……そんなこと、あるはずないだろ。
 確かに浩成はイヤな奴だけど、こんな馬鹿なこと、何度も許されるはずがない。

 ゆるく首を振って、ふと時計を見上げる。
 二宮さんが風呂に入ってから、もうすぐ一時間が経とうとしていた。