【南国荘U-L】 P:03


 南国荘の頂点にいるのは、ヨウコさんだと思うよ。いくらレンがみんなの世話をしていても、一番上の存在はヨウコさん。そして、ラジャなのかな。
 だけど、一番強いのはトラオミだ。
 だってトラオミが、家族として一番愛されてるんだから。

「トラオミが可愛くオネガイして、ダメっていうヒトいないデショ。明日はレンもチトセも帰ってクル。ヨウコさんはもうスグ。もちろんボクもいる。みんな、トラオミの味方ダヨ」
「や、あの…でもさ」
「トラオミはアオキに帰ってほしくナイ。だったらアオキを帰さないでって、みんなにオネガイするとイイ。みんな協力してクレルから。ヒロナリ一人じゃ敵わナイ」

 トラオミは無自覚なのかもしれないけど、彼が何かを望むとき「ダメ?」
って言いながら少し首を傾げる姿、ものすごく可愛いんだ。
 躊躇う表情と不安げな声。それから、ダメ?って聞いてるくせに、相手を信じきっている瞳。
 トラオミ本当に気付いてないの?
 レンでさえが、仕方ないって言いながら、トラオミのために動くんだよ。

「咲良さん…オレに甘すぎ」
「ソウダネ、超甘い。イヤ?」

 苦笑いに変わったトラオミの表情にほっとして、ボクは彼の口癖を真似てみる。
 トラオミ、よく言うんだよ。
 超勝手、超待った、超楽しい。
 面白いよね。トラオミの日本語は、ボクのお気に入りなんだ。
 細い身体がボクにぎゅうっと抱きついた。甘えた表情が、超可愛い。

「イヤじゃない」
「OK、それでイコウ」

 もうすぐ帰ってくるヨウコさんと、明日帰ってくるレンたち。
 トラオミがアオキを帰さないで欲しいって言えば、必ず願いを叶えてくれる。
 ヒロナリは抵抗するかな?そんな彼を説得するのも、少し楽しそうだ。
 トラオミはようやく落ち着いて、時々見せてくれる拗ねたような表情を浮かべた。

「でもさ〜。オレ、可愛くオネガイとか、してる?」
「してるヨ!オネガイするトラオミは、すごくカワイイ。キスしたくなるくらい」

 レンを愛しいと思っていたときとは、少し違う。愛くるしくて可愛くて、どんなワガママでも聞いてあげたくなるんだよ。
 ぎゅうって抱きしめて、たくさん触れたくて、たくさんキスしたいんだけど。残念ながらトラオミは慌てて「それはダメ!」って言いながら、ボクの腕を抜け出した。

「え〜…ザンネン」
「残念じゃないっ」

 逃げようとするトラオミを捕まえて、じたばた暴れるのを抱きすくめて、額に唇を触れさせる。真っ赤になるのが可愛くて、彼のさらさらした髪をかき回していたら、玄関の方から「だだいま〜」というヨウコさんの声。
 ボクはすぐにトラオミを解放した。
 行っておいで。
 南国荘のママに会って、ボクの言葉を確かめるといい。
 この屋敷に住む人は、みんなキミの味方だよ。