ヨウコさんが帰ってきて、トラオミと三人でしばらく、色んな話をしていた。
でも疲れた様子のヨウコさんに気付き、ボクとトラオミはそれぞれ、部屋へ引き上げることにしたんだ。
ボクの部屋へ来る?って聞いたけど、トラオミは少し考えてから、首を振った。もう大丈夫って。柔らかく微笑む彼は、少しだけ大人の顔をしていた。
部屋に戻って音楽を聴きながら、ギリシャの友人たちにメールを打つ。みんな日本に興味を持っているせいか、色んなことを聞きたがるんだよ。
本を読んだりメールを打ったり、ボクの夜の過ごし方。
日本に来て一番驚いたのは、レストランが22時ごろ閉まってしまうという事実。みんな日付が変わる頃には寝ちゃうんだってね。
ギリシャは1時や2時まで開いてるお店がほとんどなんだ。お昼過ぎに一度閉めて、もう一度開けるから。
なんだか不思議。日本人はとても忙しく働くのに、夜も早いなんて。いつ遊んでるんだろう。
南国荘で会社に勤めているのは、チトセだけ。毎朝7時半には出て行って、帰ってくるのは20時くらい。日によってはそれからも、まだ家で仕事をしてる。
会社のお休みはどれくらいあるの?って聞いたら、お昼の1時間だけだと笑ってた。
すごいな。身体壊したりしないのかな。
パソコンを開くと、恋人だった青年からメールが届いていた。
アポロンとエロス(キューピッド)、どっちが美味しかった?だって。レンとトラオミのことだ。
残念ながらどちらも、ボクに振り向いてくれなかったんだよ。そう返信を送ったら笑われるかな。
メール作成の画面を開いたけど、ボクはそのまま肘をついて、手を止めた。
実際のところ、アオキ自身はどうしたいんだろう。
せっかく明るく笑うようになってきたのに、ヒロナリの前では、初めて会ったときよりもずっと、暗い表情ばかり浮かべていた。
明日になってみんなが揃えば、彼は今度こそ、助けて欲しいって言えるかな。
トラオミが好きなら、ここにいればいいと思うんだけど。アオキが自分の想いに気付いていない現状では、それを理由にして南国荘に残るなんて、さすがに言えないだろう。
恋は自分で手に入れなきゃ仕方ない。
トラオミかアオキか、どちらかが動かなきゃ何も始まらない。
ゆっくり恋をするのも楽しいかなって、そう思っていたから、黙って二人を見守ってたんだけどね。
溜息を吐いて、キーボードに手を置いたボクは、物音に気付いて顔を上げた。
首を傾げ、音楽のボリュームを落とす。
「二宮さん!二宮さんオレだよッ!!ここ開けて二宮さんっ!」
トラオミの声だ。激しく扉を叩く音もしてる。