【南国荘U-L】 P:05


 いつも静かな南国荘の夜に、珍しい騒動。
 もしトラオミが、アオキとの夜を過ごすために行動を起こしたのなら、邪魔しないであげたいけど。どうやらそんな甘い雰囲気じゃない。
 腰を上げて、部屋を出た。
 廊下の向こうで言い争う声。ヒロナリの尖った声が聞こえてる。
 そっと様子を見に近づいたボクは、アオキを連れ出そうとしている勇敢なトラオミの姿を見て、口元を緩める。
 カッコいいな。頑張れ、トラオミ。
 だけどボクはヒロナリが手を振り上げたのを見て、慌てて廊下の角から足を踏み出し、ヒロナリを止めに入った。

「ナニするツモリ?」
「!…咲良さんっ」

 何をする気なのヒロナリは。呆れるよ。
 こんな子供に本気で手を上げるつもり?

「もう夜中ダヨ。そんなオオゴエ、出さないで」
「何を言ってるんだ。騒いでいるのはこの子の方だろう?」
「だからって、ヒロナリがトラオミを叩く理由にはナラナイヨ」

 ボクを睨むヒロナリは、夕食の席で会っていた彼と、別人みたいだ。
 手を伸ばして、トラオミとアオキを部屋の外へ引っ張り出す。震えているアオキを見て驚いた。
 まさかレイプされた?お兄さんに?
 青ざめた顔。シャツから覗く首筋にも、情事の痕が見えている。
 なんてことを……自分の弟に、それも他人の家で。信じられないよ。
 不機嫌な顔でアオキを取り戻そうとするヒロナリに、立ち塞がった。
 知ってるよ。ボクがこうして真ん前に立ったら、大抵の日本人は威圧感を受けるんだ。

「ナニ怒ってるの?イイジャナイ、アオキがどこで寝ても。それともココで寝なきゃイケナイ理由がアル?」

 頭の上から言うボクを、ヒロナリは鋭い眼差しで睨みつけてる。
 怖くないよ、そんなに睨んでも。
 ヒロナリよりもトラオミの方が、ずっと勇ましいんだから。

「馬鹿馬鹿しい。だったら蒼紀(アオキ)がこの子の部屋で寝る理由もないだろ」
「あるデショ、理由」
「何を言って…」
「トラオミはアオキと一緒がイイ。アオキと一緒にイタイ。それはダイジな理由ダヨ」

 可愛いナイトがボクを見上げていた。
 今、ヒロナリを糾弾したって仕方ない。それはアオキを苦しめるだけだ。
 ボクはトラオミに笑いかける。
 行ってもいいよ、ここは任せて。
 そうしたらトラオミは、ありがとうって言うみたいにボクの手をぎゅっと掴んで、アオキと一緒に自分の部屋へ戻っていった。
 ほんとに可愛いね、ああいうところ。
 でもトラオミは可愛いだけじゃない。ちゃんとアオキの危機に気付いて、助けてあげられる。強くて、優しいんだ。

 ヒロナリの舌打ちする音が聞こえた。
 ちょっと頭に来たから、アオキを追う視線の間にドン!と手を付いて、遮ってしまう。
 もう諦めたら?
 ヒロナリの負けなんだから。