いつも静かな南国荘の夜に、珍しい騒動。
もしトラオミが、アオキとの夜を過ごすために行動を起こしたのなら、邪魔しないであげたいけど。どうやらそんな甘い雰囲気じゃない。
腰を上げて、部屋を出た。
廊下の向こうで言い争う声。ヒロナリの尖った声が聞こえてる。
そっと様子を見に近づいたボクは、アオキを連れ出そうとしている勇敢なトラオミの姿を見て、口元を緩める。
カッコいいな。頑張れ、トラオミ。
だけどボクはヒロナリが手を振り上げたのを見て、慌てて廊下の角から足を踏み出し、ヒロナリを止めに入った。
「ナニするツモリ?」
「!…咲良さんっ」
何をする気なのヒロナリは。呆れるよ。
こんな子供に本気で手を上げるつもり?
「もう夜中ダヨ。そんなオオゴエ、出さないで」
「何を言ってるんだ。騒いでいるのはこの子の方だろう?」
「だからって、ヒロナリがトラオミを叩く理由にはナラナイヨ」
ボクを睨むヒロナリは、夕食の席で会っていた彼と、別人みたいだ。
手を伸ばして、トラオミとアオキを部屋の外へ引っ張り出す。震えているアオキを見て驚いた。
まさかレイプされた?お兄さんに?
青ざめた顔。シャツから覗く首筋にも、情事の痕が見えている。
なんてことを……自分の弟に、それも他人の家で。信じられないよ。
不機嫌な顔でアオキを取り戻そうとするヒロナリに、立ち塞がった。
知ってるよ。ボクがこうして真ん前に立ったら、大抵の日本人は威圧感を受けるんだ。
「ナニ怒ってるの?イイジャナイ、アオキがどこで寝ても。それともココで寝なきゃイケナイ理由がアル?」
頭の上から言うボクを、ヒロナリは鋭い眼差しで睨みつけてる。
怖くないよ、そんなに睨んでも。
ヒロナリよりもトラオミの方が、ずっと勇ましいんだから。
「馬鹿馬鹿しい。だったら蒼紀(アオキ)がこの子の部屋で寝る理由もないだろ」
「あるデショ、理由」
「何を言って…」
「トラオミはアオキと一緒がイイ。アオキと一緒にイタイ。それはダイジな理由ダヨ」
可愛いナイトがボクを見上げていた。
今、ヒロナリを糾弾したって仕方ない。それはアオキを苦しめるだけだ。
ボクはトラオミに笑いかける。
行ってもいいよ、ここは任せて。
そうしたらトラオミは、ありがとうって言うみたいにボクの手をぎゅっと掴んで、アオキと一緒に自分の部屋へ戻っていった。
ほんとに可愛いね、ああいうところ。
でもトラオミは可愛いだけじゃない。ちゃんとアオキの危機に気付いて、助けてあげられる。強くて、優しいんだ。
ヒロナリの舌打ちする音が聞こえた。
ちょっと頭に来たから、アオキを追う視線の間にドン!と手を付いて、遮ってしまう。
もう諦めたら?
ヒロナリの負けなんだから。