傷を癒してあげることが、出来なかったとしても。それはアオキが人前に出られるくらい、落ち着いた証拠だ。
きっとそばに、トラオミがいたから。
「ダイジョーブ。マダ間に合う」
「咲良さん…」
「帰ってキタラ、一緒に考えヨウ。アオキはヒロナリに渡さナイ。レンやチトセ、ミンナで考えヨウ?アオキがシアワセになる方法」
「…うん」
「ねえトラオミ。ガッコウ、お休みスル?」
しばらくトラオミは迷っていたみたいだけど。首を振って、ボクを見上げた。
「行ってくる」
「ワカッタ。アオキは守るカラ」
「うん。ありがと」
安心したのか、ふにゃりと歪んだトラオミの顔。ボクは彼に鞄を渡すと、冷たい頬を両手で包んで、額に口付けた。
「気をツケテ、行ってオイデ」
「…行ってきます」
一生懸命、笑ってくれたトラオミ。
ボクに背を向けた彼は、その笑顔が嘘のように肩を落として、歩いていく。小さく見える後ろ姿は、走っていって抱きかかえてでも連れ戻したくなるくらいだ。
だけどトラオミは、学生として自分の役目を大切にしているのかもしれない。自分が学校をないがしろにすることで、いっそうアオキを傷つけると思っているのかも。そう思うから、止められなかった。
後ろを歩いていって、門のところからトラオミが見えなくなるまで、華奢な後ろ姿を見守る。
元気出して、トラオミ。
君は少しもダメなんかじゃない。
とても勇敢で優しい、アオキのナイトなんだから。