お茶のセットを持ってきたアオキは、どうしていいのかわからずに立ち竦んでいる。
「ありがとう、あーちゃん。もらっていくわね」
「…はい」
「ねえさくらちゃん、少しここ、お願いしていいかしら?そろそろラジャが起きてくる頃だと思うの。私、部屋で待っていてあげたいんだけど」
「イイヨ。レンが戻るマデここにイル」
「そう?じゃあ、よろしくね」
「ダイジョーブ」
ボクが頷いたのを見て、ヨウコさんはポットの乗ったトレイを手にリビングを出て行った。
ご飯を食べ終わっていたボクは、きれいになった食器を手にキッチンへ向かう。アオキも一緒に戻って、それを受け取ってくれる。
「すいません…」
「ゴチソウサマ。オイシかった」
カウンターからアオキを見つめた。彼もトラオミに負けないくらい、目が真っ赤だ。
何もして上げられなかったと、トラオミは言うけど。泣きたいときに泣かせないのは、優しさじゃない。どんなに苦しくても、トラオミはそばにいてあげた。
あんなに目を腫らすほど泣いてても、逃げなかったんだ。
「蒼紀」
後ろからヒロナリの声。見ていてわかるほど、アオキは身体を慄かせている。
「台所仕事が終わったら、荷物をまとめなさい」
「帰るのはレンたちが、モドッテから。ヨウコさんにそう言ったデショ?」
「ええ、もちろん。ご挨拶はしますよ。ですがあまり遅くなっては、ご迷惑をおかけするばかりですから」
「兄さん…」
「葛さんにご挨拶が済んだら、すぐに出られるよう。荷物をまとめておきなさい」
「あ、の」
「わかったな?」
いつもそうやってた?
アオキの言葉を聞かずに、全部ヒロナリが決めて。意見も反論も許さずに。これじゃアオキが「ごめんなさい」を繰り返すようになるのは、当たり前だ。
「返事くらい、したらどうだ」
「…はい」
アオキは泣きそうな顔で、食器を洗う。でも全部片付けた後、苦しげにその場で動けなくなってしまった。
ヒロナリに従わなきゃいけないと思う気持ち。ここにいたいと思う気持ち。両方がアオキの中でせめぎあっているんだろう。
そうやってまだ悩むくらいの気持ちがあるなら、正直になればいい。出来ないなら今度は手伝ってあげるよ。
ボクはアオキのそばへ行って、彼の肩を抱き寄せた。
「イコウ。手伝ってアゲル」
「咲良さん…」
怖がらないで、大丈夫。とんとん、とアオキの肩を叩きながら、ボクらはリビングを出て二階へ向かった。
階段を上がったところが、小さなホールになってる南国荘。そこで足を止め、アオキの顔を見つめる。
「目、真っ赤ダネ。イタイ?」
「大丈夫です…すいません」
「ねえアオキ。部屋にモドッタら、ヨビに行くマデ、部屋にイテ。オリテ来なくてイイカラ」
「え…で、でも」