「ダイジョーブ。マカセテ。ボクはね、トラオミにアオキを守るよう、オネガイされたんだ」
トラオミの名前を聞いた途端、アオキの顔が歪む。涙を溢れさせ、首を振るんだ。
「アオキ…」
「ダメです…これ以上、迷惑かけられない…ぼくはもう、虎臣(トラオミ)くんのばにいちゃ、いけないんです…」
「………」
「たくさん傷つけて、嫌な想いさせて…もうこれ以上は…」
「アオキ」
不器用な二人。
どちらも同じようなことを言って、庇い合いたいのに、離れようとする。
ボクはアオキの髪を撫で、泣き顔を覗き込んだ。
「昨日、トラオミはヤサシかった?」
「…はい」
「ヨカッタね、大事にしてモラエテ」
「さく、ら…さん?」
「大事な人にヤサシくするのはアタリマエ。トラオミはアオキが大事なんだ」
大事に大事に。トラオミはずっとアオキを大切にして、守ろうとしていた。ヒロナリが来る前からずっと。知ってるよね?
でもアオキは頭を抱え、激しく首を振る。
「やめて下さい!…ダメなんです、ぼくなんか、大事にされちゃいけない」
「アオキ」
「虎臣くんみたいな人が、ぼくなんか…ぼくみたいに価値のない人間…っ」
まるで自分を閉じ込めてしまおうとでもするみたいな、アオキの手を掴む。引き離してまっすぐに目を見つめた。
「アオキは価値のナイ人間じゃナイ!」
「っ…咲良さん」
「トラオミの笑顔、信じナイノ?あの子が今までキミにしていたゼンブ、なくなってもイイノ?」
「あ…あ、でも、ぼく…ぼくは」
ぼろぼろ泣いて。自分で自分を貶めて。そんな方法で、トラオミを守ろうとする。
可哀相なアオキ。君は本当に、トラオミが大好きなんだね。
ボクは指先でアオキの額に触れた。
「ね、アオキ。ココにキスしてもイイ?」
「え…」
「ソレ以上、何もシナイ。イイヨネ?」
アオキは困惑したようだけど、なんとか頷いてくれる。ボクは唇を優しく触れさせて、すぐに離れた。
「平気デショ?」
「咲良さん」
「怖くナイ」
「…はい」
「ボクはアオキがダイスキ。ダイスキなアオキを傷つけたりシナイ。それをチャント知ってるカラ、アオキは怖くナイ」
「さくら、さん…咲良さん」
「トラオミを信じて。アオキの価値は、トラオミが知ってるヨ」
強く抱きしめたアオキは、ボクの胸で何度も頷き、背中にしがみついていた。
そうだよ、信じて?
トラオミの見ている君は、何も出来ない人間じゃないし、価値のない人間でもない。
髪を撫で、少し落ち着くのを待って、部屋まで送り届けてあげる。
一階に降りようとしたら、すうっとドアが開いて、レイシが顔を覗かせた。
「さっくん、かっこい〜」
「レイシ」
彼はくすくす笑って、すぐにドアを閉めてしまう。肩を竦めてリビングに戻ると、ヒロナリは一人暇そうに、携帯を弄っていた。