【南国荘U-L】 P:13


 ボクは冷蔵庫を開けながら、彼に声をかける。

「ナニか飲む?」
「結構です。蒼紀はどうしました」
「ジュンビ中」
「まったく…何をさせてもあいつは」

 遅いとか鈍臭いとか。小さな声でぶつぶつ文句を言いながら、ヒロナリは弄っていた携帯を置いた。黙ったままのボクを見て、にやりと口元を吊り上げる。

「何か言いたいことが?」
「…ソウダネ」

 正面に座る。じっとヒロナリを見つめる。ボクの視線に晒され、ヒロナリはため息を吐いた。

「何ですか」
「ン…ヒロナリ、どうしてアオキのこと、何もデキナイってイウノ?」
「長年あいつを見ているからですよ」

 呆れた顔で笑ってる。でもボクはちょっとびっくりしてしまった。
 だってヒロナリ、そんなにずっとアオキを見つめていたの?

「出会った中学生の頃から、あいつは何一つまともに出来ないんです。勉強もスポーツも、人付き合いさえね。親から学校の様子を聞かれても『普通だよ』と答える。意味を成す日本語さえ、ろくに喋れない」
「………」
「そのたびに俺は、あいつの面倒を見てきてやったんだ」
「ズット?」
「ああ、そうだよ。仕方ないだろ、他に誰もいないんだから」

 腹立たしそうに呟いたヒロナリが、ボクを見る。鋭い視線。昨日の夜、ボクを見上げたときみたいに。

「あんたたちが、どんな勘違いをしているのか知らないけどな。俺が蒼紀を抱くよう、仕向けたのはあいつだ」
「………」
「あいつが誘って、あいつが望んだことなんだよ。迷惑しているのはこっちだ」
「…カワイソウだね」
「だから!迷惑しているのは俺の方だと言ってるだろ…!」
「ヒロナリが、カワイソウなんだよ」

 ボクの言葉を聞いて、ヒロナリは目を見開いた。まさかそんなこと、言われるとは思わなかったって顔だ。
 立ち上がりかけていたヒロナリは、ぐったり背もたれに寄りかかる。乾いた笑い声を上げていた。

「は…はは、確かにね。同情は迷惑なだけですが、わかってもらえたなら嬉しいですよ。まったく、あなたの半分でもあいつが日本語を理解できたら、こんなに苦労はしないんですがね」
「チガウよ」
「は?」
「カワイソウなのは、キミが自分は誰をアイシテいるのか、知らないカラ」
「…なに?」

 可哀相なヒロナリ。どうしてそんなことになってしまったんだろう。
 訝しげに目を細めてる。ボクの言うことわからない?

「キミはアオキをアイシテル?」
「まさか!言ったでしょう。あいつが俺を唆したんだ。どうして俺が蒼紀なんかを」
「だったらどうしてアオキを抱くの。昨日も言ったヨネ?アイシテもいない人とセックスするの、オカシイって」
「………」